戦闘
森林を越え、平原を越え、再び森林。
目的地に近づくにつれ徐々に魔物が出現するようになってきた。
最初は戦って倒していたが、全部の相手をしていると圧倒的に時間の無駄だ。
レベル上げにはいいかもしれないが、今回の目的は調査であって敵の掃討ではない。
ステータスポイントをAGIに50程度振り分け、魔物は相手せずに逃げる事にした。
軽い駆け足で目的地まで向かっていると、いくつかの魔物が討伐された痕跡を発見した。
見た感じ多分強い魔物と言うわけではないが、その痕跡が目的地に向かって伸びているところを見ると、おそらくカノンの仕業ではないだろうか。
それに首を落として始末しているところを見た感じ、今朝見たタヌキの魔物と同じ倒し方だ。
つまりこのままこの痕跡を辿っていけば、その先にカノンが居るはずだ。
途中から面倒くさくなって数えるのを諦めたが、討伐されている魔物の数はパッと見100は越えている。
それにしても、カノンはこれだけの魔物を処理しながら進んでいるはずなのに未だに追いつけないとは……。
あいつは無双ゲームのキャラか何かなのか……?
戦闘面において僕が手助けできる要素がほぼ無い気がする。
ただ、どうも剣でしか戦ってないところを見るに、刃の通らないゴーレムだったり、物理攻撃が効かない相手が出てきた時にどうしようもないのではないだろうか。
リッテさんの話では依頼の達成率は半々って話だし、その失敗の中に剣ではどうしようもない敵が現れて、昨日のゴーレムのように逃げてきたものが結構あるんじゃないかと予想している。
残りの失敗の原因は多分、今回みたいに依頼の内容を見ずに適当に魔物を掃討だけして帰ってきて失敗扱いになったんだろう。
その部分を補うのが僕の役割だ。
せっかく実力があるなら金等級まで上げてやりたいし、等級が上がれば受けれる依頼も増える。
カノンは強い敵と戦えて、報酬量も増えて利益しかない。
ただ難易度が増える分、依頼内容の選定は慎重にしなければいけなくなるが、そこも僕がやればいい。
僕にできることは多分その程度だし。
……と、考えながら駆けていると、少し先の方から物音がする。
ようやく追いついたかのだろうか、その物音の方へゆっくり近づく。
「貴様がここのボスだな?我が名はカノン!聖剣に選ばれし次期勇者だ!!いざ尋常に勝負!!!」
やっぱりだった。
カノンは魔物化した巨大なクマと相対している。
周りには、そのクマよりひとまわり小さいクマが、どれも首を斬られた状態で数匹転がっている。
剣を向けられたクマの魔物はグオオオオォと雄叫びを上げると、カノンを切り裂くべく前足を振り下ろす。
カノンはそれを躱し、攻撃に使った前足側の側面に回り込むと、脇腹を蹴り飛ばし、その反動で木の幹に飛び移る。
カノンを受け止めた木は軋む音を上げ、次にバキッっという音と共に飛び移られた時より大きく揺れる。
カノンは木を踏み台にして、再びクマの方へと飛び込んだ。
脇腹を蹴飛ばされて怯んだクマはその動きに反応することができていない。
その一瞬でカノンの剣が喉元を切り裂き、地面を抉りながら少し離れたところに着地する。
少し遅れてやられたことを認知したかのように、首から噴水のように溢れる血飛沫を上げ、巨大なクマの魔物は地に伏した。
「ふぅ……、私の勝ちだ!!!」
カノンは高らかな勝利宣言と共にガッツポーズをする。
もはや人間技とは思えないカノンの戦い方に、しばらく僕は呆気に取られていたのだった……。
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