修正
「があっ!う……ぐ……っ」
「た、タローさん!?大丈夫ですか!?」
大丈夫ではない。
食らう事は覚悟していたが、覚悟していても痛い。
焼きごてなど比にならないほどの激痛に襲われている。
幸い肺からは外れているおかげで辛うじてまだ動けるが、正直言うとこのまま痛みのショックで気を失ってしまいたい。
あと数十秒、気力だけで持つだろうか……。
奴の魔術と同時に発動した魔術のおかげで術式の複写はできた。
リプリントと命名したこの魔術は簡単に言えば対象の術式をそっくりそのまま書き写す魔術だ。
複雑な術式の開発をしている時によく使う。
術式が展開されている時しか使用できない以上、奴がその魔術を使うタイミングを逃すことができなかった。
ボクに空の元素の知識は無いが、魔術というのは知識が無くても術式と詠唱さえ合っていれば誰でも再現が可能な技術だ。
故に、この術式を使えば「桑蓬の矢」とやらを誰でも発動できる。
だがそれだけでは魔術を発動した本人の瘴気を吸って放つだけの矢だ。
レイ君が自主的にこれを使ってくれるならいいが、彼は瘴気に取り込まれ魅せられている。
ボクも一度経験した事だ、瘴気は侵食と共に対象に力を与える。
急激な全能感が齎される事で、潜在的に力への欲求がある者は更なる侵食を求めるようになる。
それがボクが行なった人体実験で得られた結果で、今のレイ君はその典型にあるように思う。
だからこの術を自ら使おうとはしないだろう。
ボクが使用して、レイ君の瘴気を供物にしなければならない。
そのために術式を少し書き換える必要がある。
これは現状、おそらくボクにしかできない事だ。
「リタ君、カノン君、30秒……時間をくれ」
「で、でもタローさん、怪我が……」
「いいから、その間奴を近づけるな」
腹に生えた矢をそのままに、術式の修正に取り掛かる。
少し動くだけで……何なら言葉を発するだけで腹を抉られる痛みが走るが、抜いてしまえば出血で意識が持っていかれる。
今は、細く息をして耐えるしかない。
術式の修正自体は簡単だ。
ルブルムの王のような意味不明な術式でない限り、大体のパターンは同じだ。
空の元素を扱う大半の印が分からなくとも、「自身」を示す印を「レイ君」を示すように書き換えるだけで終わる。
その場所を見つけて他の紙に描き写すだけだ。
そしてリプリントはボクが作り命名した魔術、一般にこれと同等のもの自体はあるかもしれないが、あったとしてもおそらく術の名称は違うはずだから、奴にはまだ悪あがきをしているだけのように見えているはずだ。
やろうとしている事がバレれば奴は全力で阻止しに来るだろう。
その前に終わらせなければ。
土日やる気出なさ過ぎてほとんど寝てました。