正気
「こ……これは……!」
「タルタロスさん!?」
タルタロスさんが左眼を押さえ膝を付いた。
僕やリタさん、カノンには今のところ何も起こっていないように見える。
何が起こっているんだ?
「何なのですこれ……、強化魔術ですか……?」
「僕は今のところ異常は無いですが……」
「レイ君逃げろ!!!君はこの術を受けてはいけない!」
「いや、僕よりタルタロスさんの方が……」
「ボクはいいから早く!」
タルタロスさんがそこまで必死なのは珍しい。
しかし三者三様で相手がどんな魔術を使ったのかが分からない。
タルタロスさんは眼帯を外していて、その紫色の水晶のような左目を露わにしている。
そしてそれは胎動するように明滅を繰り返していた。
「白衣の……、貴様も空を扱う術を知っているのか。だが空を取り除くのに手一杯のようだな。童はもう助かるまい」
「あーあ、可哀想に。そこまでやらなくったって」
逃げるにしてもタルタロスさんを持って逃げないと。
リタさんはまあ大丈夫そうだし、自分でなんとかできるだろう。
ひとまずこの魔術の効果範囲から出て剣を取らねば。
カノンはいつものように肌身離さず聖剣を携えているが、僕の剣は馬車に置きっぱだ。
タルタロスさんに手を伸ばした時、僕はようやく異変に気付いた。
「な、なんだこれ……」
「レイ!頭からなんか生えて来たぞ!?」
僕の手が赤黒い鱗のようなものに包まれ、5本の指に鋭利な爪が付いていた。
カノンに言われ自分の頭をさすってみると、身に覚えのない突起に手が引っかかる。
たしかに側頭部あたりに何かが生えているようだ。
これは……角……?
何がどうなっているんだ?
どうして僕とタルタロスさんにだけ異変が発生して、カノンとリタさんはなんともないのだろうか?
いや、そんな事よりも今は元凶であるあの男を倒さなければならない。
幸いこの爪はかなりの強度がありそうだ。
剣を取りに行く手間が省けた。
カノンを下ろして前へ進む。
「ちょ、ちょっとレイさん!?戦うつもりですか!?こっちから手を出したら相手に口実を与えてしまうのですよ!?」
「どんな魔術か知らないけど先に手を出したのは向こうだろ?これじゃあやられっぱなしだ」
「ま、待てレイ君!今の君は正気ではない!そんな状態で戦ったら相手の思う壺だ!」
「レイ、なんか変だぞ!」
正気じゃない?
ならあの男のせいだ。
あいつを倒せば元に戻るかもしれないだろう?
俺は爪をあの男に向けた。
アニメ版ワンピースを第一話から視聴し始めました。
いつ見てもあのOP良いですねぇ。