成敗
魔物との戦闘になるとカノンがうずうずし始めるから、そういう時は僕の膝の上に乗せて落ち着かせている。
せっかく雇っているのだから、緊急時以外の戦闘は全部リタさんに任せている。
正直リタさんの強さなら冒険者でも十分に食べていけると思うが、不労収入で働かずに暮らすのを目指していると聞いたばかりだしそんなことを言うのも野暮だろう。
順調に旅は続いていたのだが……、6日目の昼、僕たちの前に1台の馬車が現れ呼び止められた。
荷馬車ではなく人を乗せて運ぶための馬車だ。
赤を基調としたデザインでしっかりした造りなのが見て取れる、いかにも貴人の移送のための馬車って感じだ。
馬車の脇を歩いていた和服っぽい服装の気の強そうな女性が一歩こちらへ歩み出る。
歳は結構若く見える。
僕と同じかちょっと上くらいか?
見た感じ特に武装とかはしてなさそうだ。
「お前、魔族だろ。後ろに居るのは人質か?」
「うぇっ!!?ちちちち違うのですよ!!?後ろの方々はリタのご友人で……!」
リタさんが魔族なのがバレている……!?
外見だけでは判断が付かないよう、魔族としての特徴はしっかりと隠しているはずだ。
タルタロスさんのように瘴気を確認できる能力のようなものを持っているのだろうか……?
「友人?仲間って事だな?ならまとめて成敗する!」
「ちょっ!?リタは争う気は……っ!!!」
リタさんは飛んでくる拳を大きく退いて躱した。
もしかして僕たち全員まとめて悪者扱いされてる……!?
人間の僕が出てなんとか場を納めなくては。
そう思い前に出たと同時に相手方の馬車の扉が開き、中から男が出てくる。
綺麗に整った顎髭のせいでかなり貫禄があるが、よく見ると結構若々しい。
30歳に行かないかくらいの、高そうな着物を身にまとった男性。
その佇まいは堂々と、自らが貴人である事を示している。
「ジオ様!?このくらいの相手であれば私一人で……」
「待て、リン。どうやら件の魔族は彼らのことではないようだ」
「えっ!?でもあいつ魔族ですよ!?」
「報告では女の魔族であって、この4人の中に該当する者はおらん。一人混ざり者の女もおるが、完全な変異はまだのようだ」
「え、でもあの緑の魔族……女……、女じゃないって事!?あれで!!?私より可愛いんですけど!!?はぁ!!?」
ジオ様と呼ばれた男性の言葉で、リンと呼ばれた女性の攻撃が止まる。
「だが、どうやら件の女の魔族もどこかで聞き耳を立てているようだな。我自ら出向いてやったぞ、姿を現したらどうだ」
男性は僕たちではないどこかへ向かって語り掛ける。
僕には何が何やらさっぱりだ。
言葉をそのまま解釈すると、僕たち以外に魔族が居て、この近くのどこかに身を潜めているという事なのだが……。
この道は開けた場所で、隠れられそうな場所など見当たらない。
ていうかそれよりリタさんが魔族であることも男であることも見抜いたこの人は一体何者なんだ……?
台風の低気圧のせいか、今日一日やる気が死んでました。
もしかしたらこれ明日も続くのでは……。