衝突
今必要なのはストーンウォールだ。
魔法は自分の中のイメージに影響される、壁を斜めに出現させるイメージで発動すれば壁の上面を打ち付ける形になるはず。
練習をしている暇はないからぶっつけ本番にはなるが、とにかくやるしかない!
僕はストーンウォールを取得し、少女の方へ駆け寄った。
「待たせた!石の壁をあいつにぶつける!攻撃をこっちの方に誘導できないか!?」
「貴様も私の名乗りを邪魔する気かっ!」
「まだやってたのかよ!ゴーレムに名乗っても意味無いって!!とにかく上手いこと攻撃をこっちに誘導してくれ!」
「こいつに貴様を攻撃させればいいんだな?」
少女は剣を鞘へ戻し、ゴーレムから少し距離を取った。
そして僕の方を指さしながら、ゴーレムに向かって大声で言う。
「やーーーい!!!お前の母ちゃんデベソーーー!!!ってあいつが言ってたぞーーーーー!!!!!」
「ゴーレムに母ちゃん居ねぇし臍も無いしそんな挑発効くかぁぁぁぁぁ!!!!!」
何だ?????
僕とあの少女との間に共通の常識が存在しないのか!?
と、思わずツッコんでしまい気が逸れてしまったが、ふと目を遣るとゴーレムの顔がこちらを向いていた。
気付いた瞬間、ゴーレムは僕へ向かって猛スピードで走り出す。
「えっ!?何何何!!?今の挑発効いたの!?ゴーレムって母ちゃん居るの!?胎生生物なの!?!?!?」
迫るゴーレムの迫力は今まで戦った魔物の比ではなかった。
近づくほどに視界を埋めていく岩の巨体はシンプルに恐怖映像でしかなかった。
なのにどうしてもさっきの意味不明な挑発が頭の中で反芻して、どうも現状をシリアスに受け止められなかった。
そのおかげか、僕はむしろ冷静に迎撃の構えを取ることができた。
なんか癪だけどあの少女の挑発に乗って、ゴーレムは全速力でこっちへ向かって来てくれている。
そのままの勢いで攻撃してくるならむしろ好都合だ。
打ち出す壁とゴーレムの相対速度が速いほど破壊力は大きくなる……!
「───今だ!いけッ!!ストーンウォール!!!!!」
ゴーレムが拳を振り上げると同時に、僕は地面に手を突き詠唱する。
想像していた通り、壁は斜め向きに発動させることができた。
タイミングも角度も完璧だ。
とても大きな鈍い衝撃音が響き渡り、壁とゴーレムが衝突する。
ほとんど同じくらいの威力でぶつかったのではないだろうか?
そして二度目の衝撃音が響いた後に、さっきまでとは比べ物にならないほどの静けさに包まれる……も、それをかき消すようにすぐに壁の向こうから騒がしい声が聞こえる。
会って数分しか経ってないはずなのに、もはや聞き慣れた声だ。
「うおおおおお!!!!!倒したんすか!?マジっすか!?センパイって呼んでいいっすか!!!?」
少女が走りながら歓声を上げているようだ。
役割を終えた壁は霧散して消えていく。
ファイアーボールでは分かりにくかったが、どうやら魔法で出したものはしばらくすると消えてしまうらしい。
と新たな発見をしたが、今はそれを頭の隅にメモして、ゴーレムの様子を確認しに行く。
「倒せてるといいけどな……」
ゴーレムは地面に横たわっている。
右腕は肘のあたりからちぎれて遠くへ吹っ飛んでおり、胸部は陥没し、頭は取れかけている。
壁を斜め上に打ち出したためか下半身にはあまりダメージは無いように見えるが、たとえこれで倒し切れてなかったとしてもまともな攻撃はできまい。
と観察していると、ゴゴゴゴゴ……とゆっくりゴーレムが上体を起こし始めた。
「わーっ!!!まだ倒せてないじゃん!さっきのやつもう一回ズガーンとおねがいしやす!」
「あの威力の魔法はまた結構時間経たないと使えないんだけど───」
やはりこのまま逃げるが吉か……と思ったが、ゴーレムが動いた拍子に陥没した胸部の穴から何か青いものが光って見えた。
巨大なビー玉のような、岩の中にあるには不自然な光だった。
「あれだ!胸の中に光るものがある!」
「なんすか急に、随分詩的な事言って」
「そういう意味じゃねぇ!あれ!ゴーレムの胸の穴に青い光が見えた!ゴーレムっていうのはどこかにコアがあるって相場が決まってる!あれを叩き割れないか!?」
「なるほど、任せろ!」
少女は剣を引き抜き、ゴーレムの胸へ飛び込んだ。
「聖剣トリムの錆にしてくれる!」
いやゴーレムのコアをぶった斬っても血とかでないだろうし錆びないでしょ。
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