家族
翌日、何も音沙汰がないことが確認され、騎士団一行は一度ケント村へ戻った。
重傷者という事もあって、カノンとカノンの連れである僕とタルタロスさんには第二部隊の馬車1台を貸してくれた。
今朝からカノンは移動から何から全て僕に任せっきりで、食事の時以外はあまり顔を見せようとしない。
食も細くなっているし、不調であることが目に見えて分かる。
車内で座っている今でも僕の膝の上に座り、肩先に顔を埋め黙りこくっている。
いつものツインテールも下ろしたままで、溌溂な雰囲気もどこかに消えてしまった。
僕はあえて何も言わず、落ち着くまでそのまま好きにさせてやることにした。
村に戻り報告を終えた後、騎士団も含めて葬儀を行い、一様に喪に服した。
アングリフさんが来て、カノンにこの村に残るのかと聞いたが、カノンは何も言わず僕に引っ付いているので、この村に置いては行かず一緒にルブルム王国へと戻ることになった。
村から食料を買い、7日間かけてゆっくりと王国へ帰ったが、その間もカノンはずっと大人しいままだった。
タルタロスさんも空気を読んでか必要以上は喋らないし、僕もあんまり駄弁りたい気分ではない。
変化があったのは王国へ帰り、ライアンさんの宿に戻って来た後だった。
カノンはどうしても僕から離れようとしないので、そのまま同じ部屋に寝泊まりすることになった時の事だ。
「レイ、私はこれからどうすればいい……?魔族と魔王を倒すために今まで頑張って来たのに、私ひとりじゃ何も倒せなかったし、私が余計なことしたせいで、ママが……」
震えた声で僕に訪ねる。
「……カノンのせいじゃない。あんなの全部魔族が悪いに決まってるだろ?」
上手い慰めの言葉が見つからない。
苦言を呈するならカノンが突っ走ってしまった結果とも言えるのだが……、それを言うならカノンを止められなかった僕にだって責任がある。
言葉だけでカノンを制そうとしていた結果だ。
僕にカノンを止められる力さえあればよかった。
もっと言えばアングリフさんにカノンを任せっきりにしないで、ちゃんと僕が様子を見ていればこんな結果にはならなかったのかもしれない。
「パパもママも居なくなっちゃった。独りは嫌だ……。ねぇレイ、私の家族になってよ……。パパとかお兄ちゃんとか言わないから、私と結婚して、私の家族になってよ……。そうしたらレイの事は絶対守るから、勝手にどこか行ったりしないから……」
「結婚……結婚!?」
「……レイの言う事なんでも聞くから……だから……」
カノンは弱々しく抱き着いてくる。
13歳にして両親を失う辛さは想像に難くない。
元々父親の事は大好きだったし、喧嘩別れをしたとはいえ母親の事を心配して押っ取り刀で駆け付ける程家族思いのカノンだ。
それだけ家族としての繋がりを大事にしているのだろう。
だからこそ、僕と正式な家族として繋がるための求婚なのだろう。
カノンのその気持ちを無下にはしたくない。
とは言ってもいきなり結婚なんて……、それにカノンはまだ13歳だぞ……?
普通にアウトではないか……?
日本の決まりだと、たしか結婚できる年齢は女性が16で男性が18からだった気がする。
この世界での決まりはどうだか知らないが、色々とすんなり頷けない……。
でも、こんな所で生返事は良くない事くらい僕にも分かる。
僕だってこれまで付き合ってきて、カノンの事は大事に思っている。
異世界人の僕にはいつか魔王を倒したら元の世界に帰る機会が訪れるのだろうけど、この世界に残った勇者の話もちらほらと聞く。
望めばそのまま移住できるという訳だ。
僕は今ここで、カノンと元の世界への帰還を天秤にかけなければいけない……。
カノンと家族になるという事は、元の世界の家族を捨てるという事。
僕は……。
「わかった。カノンと結婚……するよ」
「……うんっ」
僕は隣で蹲るカノンを見捨てることができなかった。
僕の答えを聞いて安心したのか、カノンはいつの間にか静かに寝息を立てていた。
僕は頭部や右腕の怪我に気を付けながら、目元を腫らした彼女を静かに見守った。
今回でカノン編が終了ですが、物語はまだ全然続くので、今後とも宜しくお願い致します。