仮面
「な……、私の拳がぁっ!?」
いつしかタルタロスさんの地下基地で判明した聖剣の性質のことを忘れていた。
カノンの持つ聖剣トリムは、カノンが手放すと何故かその空間に固定される性質を持っている。
固定されるのであれば受け止めるなんて次元ではなくなる。
いくら力を加えても動かすことのできない鋭い物体に向かって、ハルクは自身の渾身の力で拳を振り下ろしたのだ。
結果拳はパックリと二つに裂けてしまう。
「言わば圧倒的な防御力と圧倒的な攻撃力を併せ持つ奴に自分自身を攻撃させたら御覧の通りという話だな」
「もしかして最初の攻撃は本気の攻撃を誘うために……?」
しかし手痛い一撃を食らわせることには成功したものの、攻撃の余波でカノンも右腕に負傷をしてしまったようだ。
それでも残る左腕で剣を握り、拳を押さえるハルクに向けて構える。
「おっとそこまでだ」
突然知らない男の声が響いた。
ハルクの付近にどこからともなく黒い霧が出現し、その中から仮面の男が現れる。
「まったく、自惚れているからそうなるんだ。自信過剰なところは直してもらわないといけないな。とりあえず今回の侵攻はここらでお開きにしよう」
「……おいお前、突然出てきて何勝手に終わらそうとしてんだ?」
「おや、君がハルクの言っていたリーヴァとか言う奴だね?因縁の相手だとか言うからどれほどの腕かと思えば、結局ハルクに傷一つ付けられなかったじゃないか。そんな奴に貸す耳は悪いが持ち合わせていなくてね」
「オレに喧嘩売ってんのか?オレの刃がハルクに通じなかったからって、てめーにも通じないなんて馬鹿な事思ってねぇだろうな?」
「そう。残念ながら通じない。君の剣はもちろん、そこのツインテの子の剣も、あらゆる魔法も、今の私には意味がない。なんせこの姿は実態ではないからね。無駄な事はやめておくといい」
そう言い残して突然現れた仮面の男は現れた時同様に黒い霧を発生させ、ハルク共々消えて行った。
分身能力の魔族もいつの間にか居なくなっていた。
侵攻を諦めて帰ったという認識でいいのだろうか?
仮面の男が消えてからしばらく、僕たちの間には静寂が訪れたのだった。
からあげクンのほりにし美味しかったです。