巨人
一体何がカノンをそこまでさせるのか気になって仕方がないが、今はそんな話をしている場合でもない。
見ようによっては勢いで入団したようにも見えるが、騎士団って辞めたいと思えば辞められるものなのだろうか?
カノンが騎士団に入ってしまうって事は僕たちはカノンを置いて帰らなきゃいけないのか?
いやそれよりもパーティーはどうなるんだ?
僕は今どうすればいいんだ……。
「レイ!壁の魔法使えるか!?」
「えっ……あ、ああ!使えるぞ!」
「それで私のこと持ち上げてくれ!」
「わ、分かった!」
僕はできるだけ細く、高くなるようにカノンの下から地属性魔法のストーンウォールを発生させる。
せり上がる壁に乗って、カノンは地面から10mあたりの高さへ持ち上げられる。
既に目星を付けていたのか、石壁を蹴り、魔族の分身が犇めく場所のド真ん中へ弾丸のように突撃した。
「グアッッ!!!」
呻き声が上がり、分身の猛攻が止まる。
そして全ての分身の右腕が消滅し、あばらあたりにも深い切り傷が発生した。
本体を傷つけると全ての分身にも連動して同じ状態になる仕組みなのか……。
「ま、待った!待ってくれ!降参する!俺は足止めしてただけだ!あんたらを殺そうとかそういうつもりで戦ってたんじゃねぇ!腕一本落とされちゃもう戦えねぇ!分身も解除するから許してくれよぉ、ほら、なっ?」
僕たちを取り囲んでいた分身は霧になって綺麗さっぱり消え去った。
残されたのは右腕を押さえて懇願する魔族の姿だけがポツリと残される。
カノンはいまだかつて敵として許しを乞うてきた相手と戦ってきたことはないのだが……。
一体どう答えるのだろう。
「……でも私はお前を倒さなきゃいけない」
「わ、わかった!倒れてやる!これでどうだ!」
魔族はごろんと土の上で仰向けに寝転がった。
「シショー!倒した!」
「変な頓智で納得してんじゃねぇバカ!!!」
……案外いつも通りな感じで僕は安心した。
カノンは自らに危害を加える気のない相手とは戦おうとしない奴だ。
敵対心があるかどうかはカノンの勘によるものだが、今まで見て来ていた身としては信頼に足るものだ。
「チッ、なんかトドメ刺す雰囲気じゃなくなっちまったじゃねーか。おい!うじゃうじゃ魔族!大人しく捕虜になるってんなら…………」
リーヴァ様は動きを止め、茂みの奥の方を見つめた。
カノンも同様に同じ方を見て剣を構える。
その先に一体何があるというのか。
「敵の増援みたいだ」
ハインリーネ様が言う。
部隊を招集し合流したアイネス様がそれに対して問う。
「増援の数はいくつですの?お目目が飛び出る程でなければ私たちがお相手致しますわよ?」
「数は2だけど……」
「ならお任せあれですわ」
「待てアイネス、この感じ……」
前に出ようとした第二部隊をリーヴァ様が制止する。
しばらくしないうちに何か妙な音が聞こえてくる。
ガンッガンッと金属を硬い何かに打ちつけるような音が連続する。
その音はどんどんと近づいて、ふとした瞬間にぱたりと止む。
代わりに異様に重い足音が1つだけさらに近づいてくる。
そして茂みを踏み荒らし姿を現したのは巨人としか形容できない、3mはゆうに有ろう巨躯だった。
額に二つの角を生やした巨人は僕たちを見下ろして言う。
「……待たせたな。リーヴァ」
「……3年で随分背が伸びたみてぇじゃねーかよ。ハルク」
子供の頃は夏になれば代謝能力が高いせいか自然と体重が落ちて行ってたものですが、歳をとるとそうはいきませんね。
ダイエットしなきゃかなぁ……。