風穴
「一体どんな魔術を使うんですの?」
「風の魔術だ。吹き飛ばして道を作る」
「あら、倒すのではなく吹き飛ばすだけですの?」
「ああ、観戦していて一つ気付いたことがある。奴の増殖速度は異常だが、それほどのスピードで増える事ができるならば、圧倒的な数でさらにボクらを取り囲んで、袋叩きにしてしまえばいいと思わないかね?消耗戦となってしまえば勝ち目はないだろう?」
たしかにそんな事もできるかもしれない。
そうしてこないって事はつまり、そうできない理由があるわけだ。
「なるほど、私も言われて気が付いた。正確な数を数えている暇はないが、一定以上は分身が増えていないみたいだ」
「増殖するにも限度があるという事ですのね」
「あるいは一定数を越えると増殖速度が一気に落ちてしまうかだろう。この壁を突破するには倒さず押し退けるのが最適解という事だ。魔族だけ一瞬で殲滅できる魔術でもあれば別だがね」
かなり強力な能力だが、さすがに制限はあるようだ。
仮に際限なく増殖できるのだとしたら、人間界を埋め尽くしてしまえば侵略はそれで完了するだろう。
どう考えても出し惜しみする必要は無いし、十中八九ブラフという線は無い。
タルタロスさんは話しながら地面に魔法陣を描き終える。
「アイネス君、一旦兵を下げたまえ。巻き込まれるぞ」
「総員後退!!!」
「道が拓けたら補強される前に突撃して道を維持してくれたまえよ」
「分かりましたわ!」
タルタロスさんは貢がれた鎧を供物に魔術を使用する。
「風の元素、向かうは果てへ、穿つ突風よ、悉くを蹴散らせ。ブラストシュート!」
詠唱を終えると共に凄まじい強風が巻き起こった。
目には見えないものだから感覚での話になるが、その風はタルタロスさんの向く方へと直線的に吹き荒れ、一瞬にして前方の敵を薙ぎ払った。
「す、すごい風ですわ!髪が乱れてしまいます!ああでもタルティちゃん乱されるというのもまた……!」
「言ってる場合かね。鎧5つ分無駄にするつもりか?」
「そうでしたわ!総員突撃!!!」
タルタロスさんが空けた風穴に第二部隊が突撃していく。
カノンたちを避けるために中心からずらして魔術を放ったせいでまだはっきりとカノンの姿は見えないが、なんとなく中心で二人が戦っている事は分かる。
「私たちも道を維持してくれている間に突撃しよう!」
ハインリーネ様が先陣を切って走り出す。
僕もそれに続き、ルーナさんもタルタロスさんを抱えて付いて行く。
今使ってる椅子のカバーが剥がれて来て、下地のメッシュがどんどん露わになってきてしまっているんですけど、正直下地の方が触り心地いいのでこのまま全部禿げろって思ってます。