推理
「グッ……」
「なんだ?もう限界かぁ?」
戦斧の魔族がついに片膝を付く。
その横っ面を蹴り飛ばしたかと思えば、その一瞬でリーヴァ様の姿が見えなくなっていた。
辺りを見回して探していると、どこからか「グギャアアアアア!!!」と悲鳴がこだました。
戦斧の魔族の声ではない。
という事は他の魔族か。
一度戦斧の魔族をダウンさせておいて、その間に後衛を狙ったわけだ。
前衛が完全に落ちてしまえば後衛は逃げてしまうからだろう。
「チッ、1匹取り逃がしちまった」
リーヴァ様は苦虫を噛んだような顔で木陰から姿を現す。
足を持って引き摺られる細身の魔族は矢筒を背負っていて、この魔族が弓を使っていたことが分かる。
抵抗せず、力なく引き摺られていることから、絶命しているか瀕死状態であることが窺える。
戦斧の魔族もほぼ瀕死状態な事から、とりあえずはリーヴァ様の勝利といっていいだろう。
「一応ちっと探してみたけど、既にコイツ以外に気配が無かった。逃げ足がはえー能力の魔族だったのか?」
「あの、そのもう1体の魔族なんですけど、もしかしたら戦闘始まる前から既に逃げてたりしません?」
僕は挙手しながら発言する。
もう1体の魔族については僕も少し気になるところがあった。
「どういう事だ?」
リーヴァ様は怪訝な視線を僕に向けた。
「いや……ちょっと気になった事があって……、矢は場所を変えながら射ってきてましたけど、炎はずっと同じとこから攻撃が来てたなって。多分魔術だと思いますけど、たしか魔術は魔法陣さえあれば遠隔でも発動できるはずなので、本人がその場所に居る必要ってそこまで無いんですよね」
これでも多少はタルタロスさんから魔術についてレクチャーを受けている。
あくまで戦術的に魔術を組み込む場合の特性だとかの、自分が使う前提での知識ではないが。
僕の話に対してスタンクさんは疑問を呈す。
「じゃあ逃げた魔族は、逃げながら魔術を使ってたって事か?結構狙いは正確だったぜ?」
「いえ、もう一つ観てて気になった事があって。矢と魔術が同時に飛んでくるっていう事が無かったんですよ」
「あー、なるほどな、言いたいことはだいたい分かった。よーするに、1匹逃げてる事を悟らせないために、コイツが弓と魔術両方使ってオレたちに3匹居ると誤認させてたって事かよ」
リーヴァ様は弓の魔族を片手で持ち上げながら、得心いったような顔をする。
僕の推理は概ねそんなところだ。
実際そうだとしたら、リーヴァ様は相手の気配が無くとも遠距離攻撃を全て避け切った事になるから、凄い度はさらに上がるのだが。
しかしそうなると相手側の事も侮れなくなってくる。
事前に騎士団に察知されたことを察知し、即座に逃げる判断ができ、足止め係もしっかり仕事を果たす。
魔族ってこんなにも連携を取ってくる相手だったのか……。
魔物を使役できる魔族は単体で群衆だったから他の魔族と群れて居なかったのだろうが、もしかしたら僕たちの相手がその魔族だったのは運がよかったのかもしれない。
もし今リーヴァ様と戦った魔族が相手だったら3対2だったとしても敗色が濃厚だっただろう。
牛乳は常温が一番美味しいと思います。