鬱憤
「……お出ましだな」
森林に入り少し進むと、パシュンと木陰から何かが飛来する。
リーヴァ様はそれを剣で受け流し、ベクトルを変えられたそれは地面に突き刺さる。
飛んできたものは矢だった。
思えば相手も知能のある相手だ、飛び道具を使ってくるのも当然か。
それより矢払いをしてのけたリーヴァ様の方だ、そもそも矢払いなんて常人にできる技では無い。
もしかしたら動体視力の良い人ならできない事はないのかもしれないが、それにしたって飛んでくる位置も予告も無い状態で木陰から飛んできた矢を打ち落とすなんて芸当はサーカスに行ったって見れるものではないだろう。
その後も続けて2発、移動しながら射っているのか、微妙に角度を変えながら飛んでくる矢を打ち落とした。
「グオオオオ!!!!!」
矢とは別方向からけたたましい雄叫びが聞こえ、上空から戦斧が振り下ろされる。
「掛け声上げちゃ奇襲にならねーだろうが」
リーヴァ様はそれを目視するでもなくいなし、戦斧の魔族に刃を突き立てる。
双剣は腕に浅く突き刺さったものの、そのまま追撃するではなく剣を軸に身を翻した。
一瞬遅れてリーヴァ様が居た場所へ青白い炎の塊が通過する。
「はぁん、そっちが本命だったか」
魔法か魔術か、まだ判断は付かないが、発動時の詠唱を覆い隠すための掛け声だったという事か。
相手は予想以上に連携して戦ってくる……。
3対1で視界もあまり良くない状態での2方向遠距離攻撃、リーヴァ様は本当に一人で大丈夫なのだろうか……。
「まあ姉御を信じて観てろよ。姉御にとって遠距離攻撃なんて有って無いようなもんだ」
「有って無い……って?」
「姉御は次どこから攻撃が飛んでくるかってのを肌感覚で分かっちまうんだ。あんなトロい攻撃なんて一個も当たらねーよ」
つまるところ遠距離攻撃はほとんど攻撃としての意味を成さないらしい。
タルタロスさんの使った魔術のような、拘束した上で避けようのない範囲を覆いつくす遠距離攻撃しか通用しないわけだ。
何それチートじゃん。
「あの斧持ちが2体だったら話は別だっただろうけどな。あのフォーメーションじゃ姉御にとって1対1と特に変わんねぇって事だ」
飛んでくる矢や魔法あるいは魔術を躱しながら、戦斧の魔族を追い詰めていく。
一つ一つの攻撃は浅いが、着実に相手を弱らせていっている。
動きの過激さはカノンと似ているところもあるが、一撃必殺をモットーとしているカノンの戦い方とは正反対のスタイルとも言える。
まるで戦闘をわざと長引かせているかのようだ。
それも作戦の一部なのか、あるいは……。
「じわじわと削って、楽しんでます……?」
「あー、まあ、そんな感じだ。姉御は三度の飯より戦い好きな戦闘狂でよ。だからこそ第五騎士団の団長を務めてる訳だが、時間の許す限り戦おうとするのは悪い癖でもあるかもな。でも真剣で戦う事なんて滅多に無くてよ、唯一真剣で手合わせできてたオリハルク様が居なくなって、姉御の鬱憤が溜まる一方なんだ。すまんが多少大目に見てやってくれねーか?」
スタンクさんが代わりにそう詫びる。
正直あまりいい心地はしないが、特にこれといって口出しできる実力者ではない僕は、黙って見学を続行することにした。
語彙力が欲しい。
西尾維新先生の10分の1でもいいから……。