紳士
「な、なんだ……?」
僕は起き上がった。
高感度敵対センサー内蔵のカノンが目を覚ます様子はない。
敵ではない何者かであるか、疲労でセンサーが働いていないかのどちらかだがはたして……。
「お!本当に居た!!」
「えっ、ハインリーネ様!?」
姿が見えるや否や声を上げたのは馬に乗る仰々しい鎧を身にまとった人物。
金髪で長身の男、ハインリーネ様だった。
馬郡の先頭で7人の後続を率いて現れた。
「どうやら彼女の言葉に嘘は無いようです。リーヴァさん、離してあげてください」
「んだよ、つまんねぇな」
タルタロスさんが後続の女性に担がれていた。
僕たちが借りた馬も荷物を積んだ状態で最後尾に追随してきてるようだ。
女性はハインリーネ様の言葉に従い、タルタロスさんは首襟を掴まれ地に降ろされる。
手枷も付けられていたようで、タルタロスさんの表情はあからさまに不機嫌だった。
それにしてもリーヴァさんって名前……、たしかダイアンさんの話で出てきた人物だ。
この人も騎士団長だったはずだから、名前を呼ぶ時は敬称を付けないといけないな。
「……これはレイ君たちがやったんだね?」
「は、はい……」
ハインリーネ様の視線の先には巨大な檻と炭の山があった。
さらには半径30m近くが焼け野原だ。
環境保護団体に見られたら確実に怒られる惨状である。
……と、そんな心配は杞憂だった。
「いやはやあっぱれだ!巨大な火柱が見えたから急いで来てみれば、まさか3人で魔族を倒してしまっていたとは!一部獲物を取られて不機嫌な戦闘狂も居るが助かったよ!」
「あ……ありがとうございます……」
「国へ帰ったら魔族討伐の褒賞を出そう!」
ハインリーネ様はパチパチと軽い拍手を交えてそう言った。
一部不機嫌……というのは一人そっぽを向いているリーヴァ様の事だろうか。
「……ハインリーネ様、この方たちとはお知り合いですか?」
ひとつ後ろに居た大柄な男性が質問する。
「ああ、以前色々あってね。白衣の少女とは初対面だが、彼らには騎士団への入団を勧めた事もある。断られてしまったがね」
「そ、その節はどうもすみません……」
「へぇ、まだ子供みたいですが、そんなに腕が立つんですか?」
「磨けば光る、ってところさ」
ハインリーネ様と大柄な男性は馬から降り僕たちに歩み寄って来た。
どちらも高身長だから圧迫感がハンパない……。
カノンは寝てるしタルタロスさんは荷物の確認してるしで、僕一人で相対さなければならない。
「彼らは冒険者だ。彼はレイ君、後ろの青髪の子がカノンちゃんだ」
「すみません、カノン、疲れて寝ちゃったみたいで」
「大丈夫だよ、寝かせておいてあげよう」
大柄な男性に僕たちの事を紹介した後、僕たちにもその男性の事を紹介してくれる。
「隣にいるこの大男はグレン・ドルガ、第一騎士団の副団長だよ。他のメンバーは長くなるから割愛でいいかな?」
「あっ、はい、大丈夫です」
「グレンって呼んでくれて大丈夫だ。よろしく、レイ君」
「よ、よろしくお願いします、グレン……様?」
「様なんてガラじゃない。呼び捨てが気まずかったらさん付けでいい」
「分かりました……グレンさん」
グレンさん、結構紳士な人だった。
グレンさんに握手を求められ右手を差し出す。
触れてみるとすごく手の皮が分厚い。
それに手がめっちゃデカい。
グレンさんの手に僕の手がすっぽり収まってしまう。
簡単に握り潰されそうで割と恐怖だ。
「それにしてもせっかくハインリーネ様に騎士団入りを推薦されたのに入団しなくてよかったのか?」
「いやまあ、色々ありまして……」
「彼らは目標を持って冒険者をしている。それを邪魔してしまうのは野暮というものだ」
「へぇ、そうなんですね。うちの息子は騎士団目指して冒険者やってるものだから、冒険者ってそういうものだと思ってましたよ」
やっぱり普通は騎士団っていうのは憧れの職業なんだろうなぁ。
異世界人の僕にはそういう憧れは無いけど、安定収入だけは少し心残りだ。
「まあ挨拶もこの程度にして本題に入ろう。レイ君、倒した魔族の情報を教えてもらえるかな?」
ハインリーネ様の目つきが変わる。
仕事モードって感じだ。
僕は倒した魔族の事について包み隠さず話した。
メイドインアビスの映画がアマプラにあったので、丁度2期やってるしもう一回観返そうと思って視聴しました。
何度見てもSAN値が削られますね。
……時間空けてからまた観よう。