追跡
「そうだレイ君、金は余っているかね?」
「はい、結構余ってます」
このくらいと差し出した硬貨の入った巾着から、タルタロスさんは金貨を1枚取り出し、見送りに来ていたライアンさんにポイと投げて渡した。
「扉の修理代だ。次はカノン君が壊せない鉄扉にでもするといい」
「い、いや、さすがにそりゃ不便じゃねぇか……?」
一応僕も詫びを入れてから馬を走らせた。
しばらくはタルタロスさんの馬を先頭に、リタさんと通った道を逆方向に駆ける。
すぐに暗くなって何も見えなくなってきたので小一時間程度しか走らせることができなかったが、ただ走るよりは距離が稼げただろう。
食料はちゃんとタルタロスさんがライアンさんたちに頼んで用意してくれていた。
とりあえず1週間くらいは持つだろう。
焚き火に火を灯し、パンを食べていると、タルタロスさんは地図を広げて何かをしていた。
気になって覗き込むとタルタロスさんからの解説が入る。
「ケント村というのはおおよそこのあたりだ」
地図の右側やや上あたりの山岳地帯を指差す。
「馬を使っても5日前後はかかるだろう。そして今のカノン君の場所がここだ」
そう言って今度は地図上の小石を指差した。
それはひとりでに地図上を少しずつ右方向へ移動している。
「これって……?」
「カノン君には宿に居る時に予めマーキングをしておいた。これはそのマーキングを追跡するための魔術さ。これがボクのカノン君に対する対策だ」
「移動してるって事は、実際のカノンもまだ移動を続けてるって事ですよね?」
「そうなるな」
「あいつ、普段ならとっくに寝てる時間なんですけど……大丈夫かな……」
いくら体力オバケとはいえいずれ限界は来るはずだ。
故郷が心配な気も分かるが、あまり無理はしないで欲しい……。
「倒れたら倒れたで僕たちが拾っていけばいい。あまり気を揉まず今は明日に備えよう」
「そう……ですね」
タルタロスさんは地図を閉じ、パンを口にする。
馬たちも草を食みながら体を休めている。
「そういえばタルタロスさん普通に馬に乗ってましたけど、乗馬の経験とかあったんですか?」
「ああ、昔取った杵柄というやつだ。当時は馬になど興味は無かったが、なんだかんだ役に立つものだな」
「なんか意外でした。僕は今日が初めてなんで、できればこの後も先頭走ってもらっていいですか?」
「ああ、問題ない」
後続の馬は自然と先頭の馬に付いて走ってくれる。
経験がある人に先頭を任せた方が安心だ。
まさかルブルム王国に帰ってきてすぐにまた遠征することになるとは思ってもみなかったが、これはただの魔族討伐ではなく一種の緊急事態でもある。
魔族の強さはまだいまいち分からないとはいえ、少なくともカノンの故郷が危ない状態ではあるはずだ。
騎士団も既に動いているのだろうが、少しでも先に辿り着いて魔族を抑えるよう努めるべきだろう。
レベル上げやステータスの割り振り、取得する魔法の事も考えておかなければならないな……。
決戦はおよそ5日後だ、それまでにできる限りの準備はしておこう。
そういえば3ヶ月も続いてるんですねこの投稿。
いまだに飽き性を発動してない事に我ながら驚きですが、これも物語の終わりまでの道筋をあらかた考えてから書き始めてるおかげかもしれないですね。
プロットって大事。