厩舎
「緊急の要件といったところか。このヴェルトラーデというのは誰だい?」
「この国の騎士団の団長さんですよ」
「おや、騎士団長様直々の案件とは、2ヶ月でよくそんな地位へ上り詰めたものだな」
「いや、ハインリーネ様と知り合ったのはたまたまっていうか……王宮に訪ねた時に色々あって、その時に知り合ったんです」
手紙の内容は協力要請。
簡潔に言うと、「とりあえず目的地であるケント村付近に来てくれ」という内容だった。
「具体性の無い依頼のようだね。こんな依頼を受けるのかい?」
「多分具体性が無いのはわざとですよ。……タルタロスさんには言ってもいいか。管轄地域内に魔族が出現したら僕にその事を教えてくれる約束をしてたんですよ」
「魔族だって!?ボクも連れていってくれるのだろうね!?」
「あぁ、はい、まあ」
ものすごい食い付いて来た。
まあ元々その分野の研究者だったわけだし食い付きもするか。
「とは言ってもケント村ってどこでしょうかね?」
「おや、忘れたのかい?ルブルム王国から東方向、やや北寄りの、カノン君の故郷と言っていた村ではないか」
ああたしかに。
タルタロスさんと初めて会った頃にそんな話をしていたような……。
「え!?って事はカノンの故郷に魔族が出現したって事じゃないですか!?」
そう叫ぶや否や、カシャンというナイフとフォークを落とした音を同じくらいのタイミングで、宿の扉がバコンッと開く音がした。
視線をやると目の前の席にはカノンの姿はすでに無く、テーブルの上に食べかけの料理だけがある。
開けられたのだと思っていた扉は蝶番ごと枠から分離し道路側に吹き飛んでいた。
カノンが飛び出していってしまったのだ。
「カノンっ!!!」
「待ちたまえ!」
咄嗟に追いかけようとした僕をタルタロスさんが制止する。
「早く追いかけないと!」
「追いかけて連れ戻すのかい?」
「それは……」
九割九分九厘連れ戻せないだろう。
それにそもそも追い付けない。
「カノン君の事は一旦放置しておくしかあるまい。追いかけることよりも最速で村へ行く手段を講じた方がいい。とにかく馬だ、どこかから騎乗用の馬を借りるか買うかをしてきたまえ。あとルブルム王国領土全域の地図もだ。ボクはその間に荷物の準備をしておく」
「わ、わかりました!」
タルタロスさんのおかげで少し冷静さを取り戻し、僕はとりあえず部屋にお金を取りに行った。
ホールへ戻って来ると、扉の破壊音を聞きつけたライアンさんとアイラちゃんがその惨状を見て騒いでいたが、申し訳ないが後でタルタロスさんに事情を聞いてくれとだけ伝えて僕は宿から飛び出した。
まずしなければいけないのは両替だ。
タルタロス埋蔵金の旧硬貨では取引ができない可能性が高い。
幸い、タルタロスさんの依頼の報酬がまた旧硬貨だった場合に備えて、事前に両替する方法は調べておいてあった。
王宮付近に役所があり、そこで現行の硬貨に等価交換してもらえる。
時間が時間だしまだ営業中か怪しかったが、ギリギリ滑り込むことができた。
とりあえず金貨20枚だけ交換してもらう。
なぜこんなものをこんなに持っているのかと怪しまれたが、遺産をずっと放置していたからという理由で押し通した。
タルタロスさんはまだ生きているから遺産ではなくただの財産なのだが。
次に地図を買う。
これは雑貨屋にならだいたいどこにでも売っている。
最後に馬。
冒険者ギルドから南にずっと行った場所に、冒険者がよく利用するという馬を貸し出してくれる厩舎がある。
そこで、念のため3頭の馬を借りた。
僕は馬に乗った経験が無いので、なるべく乗りやすい馬を見繕ってもらった。
手綱の握り方はざっくりとだけ教えてもらい、後は乗りながら覚える事にする。
宿に戻ると、タルタロスさんが僕の荷物もまとめて用意してくれていた。
「お待たせしました」
「ああ、では出るとしよう。……とはいえもうかなり暗くなってしまったな。馬にも悪いし、少しだけ進んで野営するとしよう」
「わかりました」
タルタロスさんは1頭に荷物を積み、残りの1頭に跨った。
春アニメが終わってしまいました……。
満足感と喪失感もつかの間に夏アニメが始まります。
オバロもドクターストーンもダンまちもメイドインアビスも楽しみですね。