関係
「おうレイ!生きてたか!しばらくカノンちゃんしか帰ってこねぇもんだからどうしたのかと思ったぜ!」
宿に入るとライアンさんがそう迎えてくれる。
ここまで色んな人が心配してくれてたと思うと申し訳ない気持ちになって来るな……。
「心配かけてすみません、この人連れて国まで帰って来るのに手間取ってしまったもので」
「お、初めて見るお嬢ちゃんじゃねえか!お名前はなんていうんだ?」
「タルタロスという」
「へぇタルタロスちゃん!歳はいくつだ?」
「ご……24だ」
今500って言いかけたな?
「へぇ~、随分可愛らしいから18くらいかと思ったぜ!あいや、大人っぽい雰囲気もちゃんとするけどな!はっはっは!」
「まあボクも実年齢より若い風貌であることは自覚している」
そりゃあ本当は524歳だしな。
そんな話をしていると厨房からアイラちゃんが出てきてライアンさんをジトっと睨む。
「お母さ~ん!!お父さんが女の人口説いてる~~~!!!」
「まっ……!違う違う違う!!!社交辞令ってやつだから!!!」
家の裏側に向かって大声で叫ぶアイラちゃんを、ライアンさんは必死になってなだめる。
相手の年齢効くのは別に社交辞令では無くないか?
余計な事言って巻き込まれるのは嫌だから黙っておくけど。
「父がすみません。お姉さんもウチの宿をご利用ですか?」
しがみつくライアンさんを振り払ったアイラちゃんが接客を開始する。
「そうだね。とりあえず一晩泊めてもらえるかな?」
「はい、ただ空いてるお部屋がレイさんのお部屋の他にあと二人部屋しか残ってないんです……。少し割高になってしまうんですけど、大丈夫ですか?」
「だそうだレイ君、どうするかね?」
そう急に話を振られた。
「えっ、何で僕に聞くんですか」
「宿代を払うのは君ではないか。ボクは君と一緒に二人部屋でも、何なら一人部屋に一緒でも構わないがね。地べたで寝るのにも慣れたものだ」
「いやいや雑魚寝じゃ宿に泊まる意味無いじゃないですか!」
そうだ、僕がタルタロスさんの世話係みたいになってしまっているのだった。
食事代だって払うの僕だし。
まあ僕がタルタロスさんの全財産譲り受けてるわけだからそこから出せばいいわけだが。
「とりあえずお金はあるので2部屋借りましょう。僕はいつもの一人部屋使うので、タルタロスさんは二人部屋で」
「ボクが大きい方の部屋かね?普通主人である君が大部屋を使うのが道理ではないか?」
「ちょっ、タルタロスさんその話は……」
案の定ライアンさんがその主人呼びに食い付いてくる。
「おっ?なんだなんだ、タルタロスちゃんってレイの嫁さんだったのかよ!?意外と隅に置けねぇなぁ!?」
「ち、違いますからね!?」
「伴侶としての主人ではなく、上下関係としての主人だ」
「ちぇっ、なんだよ、今日一晩馴れ初めとか聞いてやろうと思ったのによ……」
「勘弁してくださいよ……」
こっちは早く寝たいんだ。
アイラちゃんは「お客さんにちぇっとか言わないの!」と、水を差しに来たライアンさんの脇腹に肘鉄を入れながら言った。
相変わらずライアンさんの家族内での地位が低いなぁ……。
その後も少し話し合い、結局部屋を持て余すのは良くないという事で、二人部屋を借りて相部屋という形になった。
僕たちは体の汚れを落とすため軽く水浴びをし、ようやくゆっくりと休める床に就く事ができたのだった。
食べてすぐ寝ると牛になるとか言いますが、自分丑年だしまあいいかなと。