魔法
夕食を終えると宣言通り僕の部屋に神楽坂が訪ねてきた。
その手には羊皮紙とペンと大きめの板、さらに何かを包んだ麻袋を持っていた。
「これ覚えてるか?」
そう言って手に持っていた板を見せてきた。
そこには魔法陣が書かれている。
「いや……、それだけじゃ分からんけど、魔導契約のやつか?」
「当たり~、これって誰でも使いやすいように何度も改良されて、この魔法陣に契約の紙を置くだけで使える魔術らしいんだ」
「へ~、んで、そんなもの持ってきてどうしたんだ?」
魔導契約に必要な物一式揃えて来たって事は何か試したい事でもあるのだろうか。
「僕たち、魔王倒したら元の世界に帰るだろ?元の世界に帰る事でこの絶対の契約がどうなるか気にならないか?」
「あー、確かに」
この世界での契約が元の世界に影響するのかは普通に興味がある。
「だから一つ、実験を兼ねて勝負でもしようと思ってね」
「まーた勝負かよ、好きだな勝負」
「まあまあ、モチベにも繋がるしいいじゃん」
「んで、どんな勝負なんだ?」
「最後に魔王にとどめを刺した方に焼肉を奢るとかどう?」
「そんくらいなら別にいいけど、普通に考えて葛木君が倒しそうじゃない?そうなったらどうするのさ」
「その時は引き分けってことで折半して葛木君に奢るとか」
「この話葛木君に知られたら容赦なくとどめ持っていかれそうだな」
「まあ他の人には内緒ってことで」
そんな話をして、僕は魔王討伐競争に興じることになった。
正直魔王という存在を軽んじすぎてる気もするが、魔王を倒した後の話だしまあいいだろう。
神楽坂は専用の羊皮紙に契約の内容を記しサインをした。
僕もサインをして魔法陣の上に乗せた。
羊皮紙は前見た時と同じように、端からチリチリと黒くなって崩れた。
本当にこれだけで契約が完了するんだから簡単なもんだ。
「契約も終わったところでもう一つ、篠原にやってほしいことがあるんだ」
「あぁ、そういえばステータスリセットの話はまだだったな」
「そう、魔法についてちょっと試して欲しいんだ」
魔法はスキルポイントを割り振ることで使えるようになるらしいが、そういえばまだそのスキルポイントの振り方が分からない。
「望月さんに聞いた話によると魔法はとある契約をしなきゃステータスウィンドウに表示されないらしくてさ、僕はもう試しちゃったんだけど、この魔法書を使うんだ」
神楽坂は麻袋から本を一冊取り出した。
魔法書とかいう名前から想像したものより結構薄い。
本の装丁はちゃんとしてるものの、中身は20ページくらいしか無さそうだ。
数種類あるのを見た感じ属性ごととかで別れているのだろうか?
「それでどうするんだ?」
「本の中にある魔法陣に手をかざすだけでいいんだって、だから明日はステータスをMAGに極振りして魔法の性能を試して欲しいんだ」
「まあまだレベル11だしいいけどさ、レベリングも結構面倒なんだぞ?」
「僕も手伝うからさ、何回もリセットできる篠原が頼りなんだ」
上手く使われてるんだろうが、頼りにされてるのは悪い気分ではない。
レベル11ならウサギ10匹も狩らずに到達できるし、先延ばしせずさっさとリセットした。
「じゃあこれ渡しておくから、明日からよろしくな!」
そう言って麻袋をまるごと渡してくる。
「これ持ち出していいやつなのか?」
「普通に市販されてるものらしいから大丈夫だって、中に入ってるやつ全部初歩的な魔法らしいしそんなに高くもないって」
「そんなもんなのか」
よく考えればこの世界の人たちもこれで魔法を習得するんだから、そこまでの高級品って訳ではないのは当たり前か。
僕は渡された魔法書をペラペラと捲ってみた。
一番最初のページには先程話にあった魔法陣が書かれていて、それ以降のページは魔法の説明のようだ。
初心者にも親切な作りで助かる。
「じゃあ、僕はこの後望月さんの方にも用事あるからこれで失礼するよ、明日魔法書忘れず持ってきてよね」
「はいはい、また明日な」
そう言って神楽坂は部屋から出ていった。
なんか色々押し付けて去っていった気がするが、僕も何度も神楽坂を便利に使ってたりするしおあいこだ。
とりあえずこの魔法書を読みながら床に就く事にした。
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