馬車
後方からガラガラと車輪が道を駆ける音と、蹄が道をを蹴る規則的な音がする。
なんと馬車がこちらへ向かって走ってきている。
「すみませーん!!!ちょっと止まってもらってもいいですか!!!」
僕は大きく手を振り馬車を遮る。
馬車は少し離れた位置で止まった。
「だ、誰です!?急いでるから早く通らせてほしいです!」
御者は手綱を握ったまま応答する。
「僕は冒険者をやってる者です!目的地はルブルム王国だったりしますか!?」
「な、何で知ってるんです!?」
「いやこの道の先ルブルム王国なので……」
もしそうでないなら多分道を間違えている。
「すみませんが僕ら二人も乗せていってくれませんか?ちゃんとお金は払うので!」
「……いくら払うんです?」
交渉スタートだ。
とは言っても運賃なんて相場が分からない。
一発で見限られないように、最初はある程度の額を提示した方がいいかもしれない。
「金貨1枚でどうですか?」
「金貨!?……う、いや一人につき金貨1枚!前払い!それなら乗せてやるのです!」
「え~……」
「や、やっぱり二人で1枚でいいです!」
と、交渉は相手が意外とあっさり引き下がる感じで終わった。
もしかして相場より結構高い額を提示してしまったか?
だとしてもなお金額を釣り上げて来ようとしたあたりがめつい感じはするが、仮に2枚だったとしてもこちらにはタルタロス埋蔵金があるし安いものだろう。
転移魔術の供物として使うよりは断然有意義な使い方だ。
僕は御者に金貨1枚を渡し、タルタロスさんと共に荷台へと乗せてもらった。
声からなんとなく分かっていたが、御者は多分僕と同じくらいの歳の女の子だった。
ハンチング帽をかぶった翡翠色の髪と瞳の子だ。
「言っておくけど、積み荷に手を出したら騎士団に突き出してやるのです!」
「しませんよそんなこと」
こういう運送屋って割と危険なイメージがあるが、女の子一人で大丈夫なのか?
護衛とかも居なさそうだし……。
それともそれだけこの経路が安全だという事だろうか?
なんて考えていたらタルタロスさんから耳を貸すように言われる。
「なんですかタルタロスさん」
「あの御者、気を付けたまえ。体中の瘴気の濃度がかなり高い」
「えっ!?」
「それらしい素振りは無いが、あの娘は魔族の可能性がある。魔族としては薄い感じがするが、人間では考えられない濃度だ」
「や、ヤバくないですか……?今カノン居ないから対処できるか分からないですよ?」
「今はまだ可能性があるというだけだ。ただ瘴気まみれなだけの人間の可能性もある。あるいは既に魔物化していて、ボクと似たような手段で魔物化を抑えているかだ」
「で、でも敵意は無さそうですしとりあえず大丈夫じゃないですか……?」
「ああ、ひとまずは気を付けておきたまえというだけだ。だがもしもの時の対策は考えておくといい」
「わ、分かりました……」
ミスドのドーナツはゴールデンチョコレートが一番好きです。
あの砂糖をボリボリ食べている感じが好きなので。