尿意
翌朝、僕はタルタロスさんのモーニングコールで目を覚ました。
「レイ君!レイ君!レイくーん!!!」
「ふぁぁ……、朝からなんなんですか……」
「早く起きたまえ!緊急事態だ!」
「な、何かあったんですか!?」
いつもの感覚で普通に寝てしまったが、そういえば今回は高性能魔物レーダーのカノンが不在だから、魔物が近づいて来ても感知できないんだった。
それに魔物の多い森林地帯からは少し離れているから油断していた。
そう反省しつつ思っていた事態とは違う緊急事態であることをタルタロスさんから告げられる。
「ボクは今、尿意に襲われている!」
「尿意かい!」
ハインリーネ様の屋敷に泊まった時よろしくズッコケそうになった。
カノンといいタルタロスさんといい、どうしてそう人を焦らせるような騒ぎ方をするのか。
「生理現象なのだから仕方がないだろう!」
「岩陰とかでして来ればいいじゃないですか!」
「残念ながらボクはまだ一人では動けない!」
「あ……、そうでした。って、手伝えって事ですか!?」
「それ以外あるまい!早くしないとしばらくアンモニア臭と共に旅をすることになるぞ!」
そうは言ってもどうすればいいんだ!?
いやどうすればいいも何も脱がせてしやすい体勢にさせて放尿させるしかないのだが……。
「あ、あの、僕でいいんですか……」
「他に誰が居るというのだね!?いいから早く!」
タルタロスさんに急かされ、仰向けのままの彼女のズボンと下着を下ろさせる。
これは介護だと自分に言い聞かせながら。
「し、姿勢はどんな感じが正解なんですか……?」
「あー、普段と同じ体勢だと難しそうだから、服を完全に脱がせて後ろから持ち上げ……馬鹿者!脱がせるのは下だけでいい!後ろから膝を抱えるように持ち上げて足を開かせるんだ。もう限界だから体勢が整い次第するからな!」
言われるがままタルタロスさんを持ち上げ、膝立ちになり発射位置を低くする。
体勢が整うとタルタロスさんは宣言通りジョロロロロと。
「くっ……、勢いでいけばなんとかなると思っていたがやはりこの姿勢はこの上なく羞恥的だ……。まさかこの歳でトイレを手伝ってもらう事になるとは……。昨日老後の介護を頼むと言ったがこうなるなら前言撤回だな、人としての尊厳を失った気分だ。体が治るまで飲食は最小限にしなければならないな……」
凄い喋る。
おそらく恥ずかしさを紛らわすためだろうけど。
「…………終わりました?」
「……あぁ。ボクのカバンにある手拭いで軽く拭いてくれ」
「ま、また地味にハードルの高い事を……」
とはいえここまで来たら最後まで世話するしかない。
僕は手拭いを取り出し軽く拭き、下着とズボンを穿き直させる。
「はぁ、とんだ羞恥プレイだった。手足が動かないのは不便極まりないな」
「……まったくですね」
こうして早朝の無駄な一波乱は一旦幕を閉じたのだった。
タルタロスさんは純潔を捧げてもいいとか煽っておきながら実際そういう状況になるとめちゃめちゃ焦るタイプです。