供物
「夜風を凌げる場所があってよかったですね」
「寝床が硬い事を除けば悪くはない拠点と言えるだろうね」
「贅沢言わないでくださいよ」
タルタロスさんは仰向けになりながら一人で足のストレッチをしている。
この調子だと明日はさらにペースが落ちそうな気がするな……。
このままだと最終的に僕がタルタロスさんを背負ってルブルム王国に帰るなんて言う、実は荷運びの馬として調教されていたのは僕だったなんて笑えないオチになりかねない。
「何か楽に王国まで行ける方法があればいいんですけどね」
「一つだけ方法がある事にはあるが」
「え?どんな方法ですか?」
「転移魔術がある。手紙のやりとりをした方法とほぼ同じ魔術さ。君が目印となる魔法陣を目的地まで持って行き、ボクは研究所に戻って転移魔術で転移する」
「一番楽な方法あったじゃないですか!もうそれで行きましょうよ!」
「まあ話を最後まで聞きたまえ。手紙程度のものと人体レベルの大きさのものとでは必要な供物が比にならないのだよ」
「でも僕が手紙を送る時、供物とか何も用意しなくても送れてませんでした?」
「それは受け取り側のボクの方で代わりに供物を用意していたからさ」
そんな配達の着払いみたいな事もできるのか……。
相変わらずいまいち原理が分からない。
「ちなみに手紙1つでどんな供物が必要なんですか?」
「小金貨1枚程度あれば十分だ」
「たっっっか!!!」
この世界での小金貨の価値は日本円換算でおよそ5万円程度。
しかもタルタロスさんの言う小金貨は旧式の方だから、現在取り扱われている硬貨より金の含有率が高く、実際の価値はもう少し高くなる。
日本では手紙を一通送るのに63円の切手が必要だから、ざっくり日本の800倍近くの価格で手紙を送っていたことになる。
うわ、なんか胃が痛くなってきた……。
「じゃ、じゃあ人一人転移させるにはどれくらいお金かかります……?」
「その人間の重量によるが、ボク一人の場合であれば君の持ち出した硬貨と研究所の倉庫にある鉱石なんかをかき集めて足りるかどうかと言ったところだね」
「……足りなかったらどうするんです?」
足りなくて転移ができず、結局またタルタロスさんを迎えに行くなんて事になったら徒労なんてレベルではない。
「足りなかった場合は足りている分だけ転移が行われる」
「え、足りてる分だけって……?」
「供物に見合った重量だけ転移が行われるという事だよ。つまり失敗すればバラバラになったボクが送られてくる可能性があるという事だね」
「融通利かな過ぎだろ!そんなの絶対見たくないんですけど!!?」
「魔術とはそういうものなのだよ。一般化された魔術は色々な制御もまとめて記述され、素人でも簡単に使えるようにコンパイルされたものだが、本来魔術は使用者が自由に要素を組み合わせていき、おおよそどんなことでも実現可能にする技術なのだよ。魔法のように一定の域を出ないような代物とは訳が違う」
「な、なるほど……?」
言葉の半分くらいしか内容が頭に入ってこなかったが、一つ分かったのはタルタロスさんがおそらく魔法アンチだという事だ。
しかしまあ、転移魔術の失敗時の代償が大きすぎる上に、コストもとんでもない時点で転移魔術を使うという手が最終手段としても使いたくないものになってしまった……。
「ちなみに供物が十分足りていて余剰が発生したとしても、おつりは出てこないから注意したまえ」
「とことん融通利かないな魔術って……」
前々から買おうと思っていたタコピーの原罪の単行本上下巻をようやく購入しました!




