仲間
タルタロスさんは戸棚から塗り薬を取り出し、火傷跡に塗り込み、はだけた衣服を正した。
「これでも気を使った方なんだがね。君が拒否すればボクは止めざるを得ない。その強制力を発生させるための隷属契約でもあるんだ。それに主従関係となれば他人から口出しされることも無い」
「でもそこまでして何を実験しようって言うんですか?」
「君のユニークスキルについて色々調べたくてね。あとカノン君についても。まあ調査は僕の方で勝手にやっておくから君は気にしなくていい。いつも通り君は君の活動をしてもらって構わない、変わるのはボクが引っ付いて回るという事だけさ。さて、ではボクも出掛ける準備をしよう」
イスから立ち上がり、戸棚を整理し始める。
「あぁ、レイ君も欲しいものがあったら勝手に持っていくといい。ボクのものは君のものだ」
「ジャイアニズムを押し付けられるなんてことある?」
そうは言っても欲しい物なんて今のところお金くらいしかない。
「え、ていうかタルタロスさんもルブルム王国に来るって事ですか!?」
「当り前だろう?付いて行かないと研究ができないし、下僕は主人に付き従うものだ」
「九割九分は前者の理由ですよね……」
「君に調査を依頼したのもボクがルブルム王国に行って騒ぎにならないかを知りたかったからなのだよ。君たちがここで研究の協力をしてくれないなら、ボクが君たちに付いて行くしかあるまい?」
「うわ~、最初からそのつもりで依頼してきたのか……。なんか嵌められた気分」
「しっかり報酬は用意したじゃないか」
「報酬が重すぎるんですって」
とはいえ仲間が増えるのはいい事……なのだろうか。
実際魔術に長けているタルタロスさんが頼りになる場面はあるはずだ。
奴隷を手に入れてしまったのではなく、新しく仲間を手に入れたと、そう考えることにしよう。
主従関係なんていうのはタルタロスさんの都合で勝手に結ばれたものだ。
「はぁ」と、軽く嘆息し、スプーンを舐めるカノンに仲間が増えたことを報告する。
「……っていうかあんなことやってた横でよく無反応で砂糖舐めてられたな」
「私も途中から何してるのかは見てたぞ」
「どこらへんからだ?」
「レイがタローのお胸舐めてたとこ」
「一番嫌な切り抜かれ方したなぁ」
タルタロスさんがくれた蔗糖の瓶は既に空になっていた。
カノンは名残惜しそうにスプーンを咥えている。
「甘いのはもう無いのか?」
「さぁな。でもタルタロスさんが仲間になった事だし、材料さえあればいつでも作ってくれるんじゃないか?」
「ほんとか!?」
「材料さえあればだがね。この拠点には今は材料になるものが無いから、ルブルム王国で買ったりするしかないだろうね」
少し離れたところからタルタロスさんが返事をする。
それを聞いたカノンはガタッと立ち上がる。
「それならすぐ帰るぞ!!急げー!!」
と、カノンはすっ飛んで地下基地から出て行ってしまった。
「まったく……先に帰ったってタルタロスさんが居なきゃどうにもならんだろうに」
「随分と元気な子だね」
その後、僕とタルタロスさんも必要な荷物を持って地下基地を出た。
外でカノンが待ってるなんてことは当然無く、やはり先に帰ってしまっていた。
そういえばタルタロスさん、走れるのだろうか?
と聞いてみたら「無理」と答えられたので、僕たちは仕方なく歩きでルブルム王国に帰る事にした。
10連回したらイナリワンすり抜けてナリタタイシンが来ました。
誕生日おめでとう!!!!!!!!