犯罪
「以前より随分と反応が早くなったじゃないか。まあそう構えなくてもいい、ちょっとしたジョークさ」
タルタロスさんはポケットから手を出し、何も無い事を証明する。
「タチの悪いジョークはやめてくださいよ」
「よく考えてもみたまえ、ボクは依頼した時点ではまだ本は図書館に保管されていると思っていたし、君にそれを教えていた。つまりボクとしては大衆に本を読まれたところで別に問題ないという認識だったのだろうと推測できるだろう?」
「……よく考えればそうかもしれないですけど、そうだったとしても怪しい行動をされれば警戒するのは当然では?」
「ハハッ、それもそうだ」
異世界だし、何が起こるかも分からない。
「ところで、本当に人体実験なんてことしてたんですか?この世界の倫理観はまだそこまで掴めてないんですが、さすがに罪に問われるのでは……?」
「もちろん重罪だろう。だがボクに人の法は効かない。なぜなら半分は魔物だからね」
「それは屁理屈では……?ていうか半分人間なら普通に法に引っかかるでしょ」
「そうなったら仕方がない、大人しく魔物化するとしよう」
「潔すぎる……」
これも冗談だろうが、もしかしたら本当にやりかねない。
……まてよ、隠蔽に協力したって事で僕も罪に問われるのでは!?
いやまあ500年前の人が生きてるなんて思わないだろうし、ここで大人しくしてる分にはそんなリスクもないか。
「ていうか今はもう人体実験なんてしてないんですよね?」
「そうだね、そもそもボクはそういう事を進んでやるような人間ではない」
「本当かなぁ」
「記録に記した人体実験はボクの敵の処分も兼ねてしたことだ。普段からそんなコストパフォーマンスの悪い実験なんてしてられないさ。それに……」
と、頬杖をついていた手で額を抑えながら少し間を置き続ける。
「人間の魔物化は危険性が高い……。ボクの左眼は偶然瘴気を与える能力を得たわけだが、ボク以外でも魔物化することでそういった特殊能力が発現することが多いらしい。攻撃に特化した能力を発現した日にはか弱いボクなんて一捻りだろうさ。詳しくはボクの本をチェックしてみてくれたまえ」
「販促したところで禁書は買えないですよ」
「つまり魔物化実験では相応に危険が孕むというわけさ。ボクがもう人体実験をしていない理由はそれの方が大きい」
「ネズミではそういう事にはならないんですか?」
「今のところネズミが特殊能力に目覚めるといったことは起きていないな。その理由についてはまだ判明していないが、そもそもボクの実験の本題はそこではないからね」
たしかに、魔物化した生物を元に戻す方法の研究がメインだったか。
ネズミでも問題無いなら絶対その方がいい。
部数が3桁に到達してしまいました。
拙作ですが、今後ともお付き合いいただけると幸いです。