召喚
「篠原、お前はこの隊から抜けてもらう」
僕は神楽坂にそう告げられ、転移魔法によって何処かも分からない遠い場所へと追放された。
事の始まりは数十日前。
高校生の僕たちはいつものように朝のホームルームが始まるのを教室で思い思いに過ごしながら待っていた。
僕もソシャゲのリセマラをしながら先生が教室に来るのを待っていると、突然床に魔法陣のような模様が広がっていき、教室内が激しい光に包まれた。
気付けば僕たちクラスメイト25名全員は、見知らぬ豪奢な広間の中心で、見知らぬ人々に囲まれていたのだった。
そこは王国グランブルクの王城の玉座の前であり、王座には立派な髭を蓄えた初老の王様と、その横には王妃と王女が立っていて、僕たちのまわりには家臣が十数人と杖をついた魔法使いの老人が居た。
「せ……成功いたしましたぞ!国王様!」
魔法使いがしゃがれた歓声を上げると、それに呼応するように家臣たちも次々と歓声を上げ始めた。
ポカンとしたままの僕たちの中から一番に声を上げたのは、クラスでは番長のような存在である葛木君だ。
「おいコラてめぇら!どこだよここは、誘拐かァ?揃いも揃って妙な恰好しやがって、ケンカ売ってんのかァおい!?」
豪胆だが口が悪いのが短所だ。
剣道部である彼の声は雑音の中でも良く響き渡り周囲の人たちを圧倒した、その声量に気圧され広間の面々は一様に静まり返る。
しかししばらくしないうちに彼の荒々しい口調に耐えかねたのか、中年ほどの一人の家臣が青筋を立てながらズンズンと歩み寄ってくる。
その手には腰に帯びた鞘から抜き放たれた剣が握られている。
「きっ……、貴様ッ!!国王様の御前であるぞ!その不敬、タダでは済まさぬ!!」
そのまま右手の剣を振りかぶり葛木君に切りかかった。
だが相手が悪かった。
上段から振り下ろしたその剣は空を裂き、葛木君はその一瞬で相手の懐に潜りこんでいた。
「なっ!?」
「おいてめぇ、誰に向かって剣構えてんだ?」
そのまま葛木君は拳を相手の鳩尾にめり込ませると、前のめりになった相手の体をそのままの勢いに転倒させ、腕をひねり剣を落とさせた後組み伏せ、完全な無力化に成功した。
まるで流れ作業のような見事な手際だった。
柔道部の蛭間さんが静かに拍手を送っている。
しかしそれが切り火となり、さらに他の家臣たちの逆上を買うことになってしまった。
先ほどの歓声とはうってかわって、広間内に怒号が飛び交う惨状へと変貌する。
「静まれ」
玉座から声が聞こえた。
それはまさに鶴の一声のように、一瞬で広間を再びの静寂へと引き戻した。
国王の発した言葉は葛木君ほどの声量とは言えなかったが、威圧感に溢れていて少し圧倒された。
国王は玉座を立つと護衛も付けずに僕たちに近づいてくる。
「まず貴殿らにはこのような形で見ず知らずの地に無理に呼び立てたこと、そしてそこのボルド伯爵の無礼、謹んで詫びさせてもらう」
おそらくボルド伯爵というのは斬りかかってきた中年の家臣の事だろう。
「こ……国王様……!」
「黙っていろ、貴様には後に然るべき処分を下す」
と、そこまで言われようやく大人しくなった。
「別に俺はこの程度のやつらが何人来ようがどうってことねぇけどな、んな事より何で俺たちがこんなところに居るのか全部説明してくれんだろうな?」
「勿論だ、だがこんな場所ではなんだね、腰を据えて話せる部屋へ行こうではないか」
葛木君は僕たちの方をちらりと見た、皆の反応を伺っているのだろう。
各々が顔を見合わせ、それぞれ小声で相談しあったりした。
次第にうんうんと頷く人が多数になったところで、葛木君は一言「案内しろ」とだけ返事をした。
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