表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

第1章 第7話 『村娘の笑顔』

第1章 第7話 『村娘の笑顔』




ヴァニシウス暦601年2月17日16時



テルロド村



「うぉ〜〜〜。人がいっぱいいるな〜。」


 ミズキとカヤの2人は新しい村に到着していた。この村では今までミズキが見てきた村とは違い、沢山の村人たちが行き交っているようだ。当然だが村人たち各々がファンタジー映画やゲームで見るような、中世から近代のヨーロッパを思わせる服装をしておりミズキも自然とテンションが上がった。

 そこへ奥からおそらく中年あたりのおばさんが歩いてきた。カヤに気づくと知り合いなのだろうか。優しい顔でこう話し始めた。


「イアカッタデズブ、アアヤタアボ、イレアコ、ナヤタカヤ⁇」


「アチフセヂズブ、イアフ‼︎」


 う〜ん。相変わらず何言ってるかわからんな。

 ミズキは解読を試みるのを諦めた。すると、カヤと話をしていたおばさんと目が合ってしまった。当然おばさんは自分のことなど知らないだろう。こちらを見ながらカヤに話しかけた。


「イアデラブ、アヘラカ⁇」


「オッテエ〜、エ〜。」


 今のは流石に翻訳できた。おそらく、


「荷台に乗ってるあいつは誰だい⁇」


 とでも聞いたのだろう。カヤは少し返答に困っているようだった。確かに説明するには難しい存在だとミズキは自分でもその自覚があった。なんなら今まであまり考えてもいなかったが、自分はまだ現実世界の服装のままなのである。その時点でこの世界の住人からは警戒されて当然である。

 カヤはなんとかミズキのことを理解させたのだろうか。2人の会話は終わり、再び馬を走らせた。

 すると今度は松葉杖のようなものを突き、包帯を巻いた足を引き摺らせ、歩いている人が見えてきた。そこに診察所でもあるのだろうか。他にも包帯で頭を巻いている人や、火傷のような痕を腕に残した子どももいる。

 それを見たミズキは全てを察した。


「まさか…最初の村の」


 村中を包み込む火柱、焼け焦げた焼死体。最初の村で見た光景がフラッシュバックし、ミズキの心を再び抉った。その時嘔吐したことも思い出し、吐き気まで再発した。


「ごめんなさい…ごめんなさい…。」


 すっかり意気消沈したミズキをカヤは無視するでもなく心配するでもなく、ただ見つめていた。




 夜になった。2人は村の中にあった宿泊施設で一夜を過ごした。部屋は小さな1人部屋を2つ借りたようだ。ミズキは少し年季の入ったベッドの上に座りボーと一点を見つめていた。するとそれが目に良くなかったのか、目から頭を通して痛みが走った。


「そういえばコンタクトも1週間以上つけたままだった。マジでそろそろ目がイカれるかな。」


 そんなことを呟いたが、外すわけにもいかずどうしようもなかった。


ドンドンドン。


 ドアを叩く音である。ミズキは返答する気力もなかったが、ドアを叩いた本人は勝手に部屋に入ってきた。カヤである。

 カヤはミズキの気力のない姿を見て少し切ない顔をすると、ミズキの顔を軽く撫でながら、


「アラキアンウクアワ、アハタナ。」


 そう呟き部屋を出て行った。相変わらず言葉は理解できなかったが、自分のことを慰めてでもくれていたのだろうか。

 初対面の時はミズキの頭を触ることをとても嫌そうにしていたカヤが、優しく頭を撫でてくれた。それだけで言葉は理解できずとも、カヤの優しさを感じることは容易であった。

 不安と罪悪感で眠れなくなっていたミズキであったが、カヤのおかげで少しは落ち着くことができた。



翌日



 ミズキが目を覚ました時には、カヤはもう隣の部屋から消えていた。身支度を急いで終わらせ宿を出ると、そこには既に馬と荷台の点検を行なっているカヤの姿があった。よく見ると昨日よりも野菜の量が増えている。どうやらカヤは運び屋のような仕事をしているようだ。荷物が増えているということは最終目的地はここではなかったのだろう。

 色々尋ねたいことはあったが、まずは1番に伝えないといけないことをミズキは口にした。


「カヤさん‼︎その…昨日の夜はありがとうございました。あの…その後は落ち着いて寝れました。カヤさんのおかげです。」


 カヤはそれを聞くと少し照れ臭そうに頬を赤らめながらもニコッと微笑んでみせた。

 え、何その表情。もはや芸術的な域なんだけど。あまりの尊さにミズキは目をくらまされた。

 するとミズキは荷台を指差し手招きした。また荷台に乗ってくれと頼んでいるようだ。もうカヤさんにならどこに連れて行かれようと構わない。カヤの笑顔が脳にこびりついたミズキはそう思った。

 しかし荷台の上でミズキは思ってもみなかった提案をカヤにされる。そこには野菜の入った樽のような入れ物と何も入っていない樽のような入れ物が置いてあった。何も入っていない樽には2つ小さな穴が空いている。カヤはミズキと目を合わせ、その後親指を立てくわっと樽の方に動かせた。


「あ、あの〜カヤさん。まさかこの樽の中に入れってことですか………⁇」




 カヤは先程の笑顔とはうって変わる、可愛いがどこか狂気を感じる満面の笑みをしてみせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ