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第1章 第5話 『孤独の老婆』

第1章 第5話 『孤独の老婆』




ヴァニシウス暦601年2月16日16時



サンフィルド村



「ふぅ〜。今日もいい汗かいたな〜〜‼︎」


 心身ともに満身創痍で、何とか村に到着した瑞樹だったが、助けてもらった老婆の言語が聞き取れず、また絶望の淵に叩き落とされてしまっていた。

 老婆にはジェスチャーを用いて、何とか言語が理解できない、わからない、ということを伝えることができた。しかし、それに気づいた老婆の方からは一切喋りかけてくることがなくなってしまった。言語を教えてやろう、理解してもらおう、といった気持ちは湧いてこなかったのだろうか。実際、言語を1から教えるということは翻訳者や教師でもないと難しいことである。おそらく老婆も教えてやりたい気持ちはあるけれども無理だと悟り諦めてしまったのだろう。というかそうであると思いたい。

 しかしそう思うのにも一つだけ理由があった。瑞樹がこの村に着いて4日ほど経っているが、毎日きちんと3食、瑞樹の分の食事も作ってくれているということである。これはとてもありがたいことだ。親切な人だと信じることには十分すぎることである。

 瑞樹もただ飯を食べ続け、居候し続けるだけの暮らしは流石に気が引けるため、老婆が毎日行っている農作業や家事などを見様見真似で手伝うことにしていた。


「なんかただ飯食うのが申し訳なくて、家の家事手伝ってた現実世界の暮らしと全く変わってないんだが。本当に異世界で生き方変えるなんて大層なことできんのかな。」


 今の生活に不満を感じながらも他に何をすればいいかもわからないでいた。ただこの村に来てある異様なことについては、すぐに気づくことができた。それは自分を助けてくれた老婆以外の他の村人がどこにも見当たらないということである。最初の村と同様、タイヤの後のようなものが多数瑞樹がこの村に入ってきた逆サイドにある別の出入り口に集中して見られた。


「多分初めの村の住人と同じように避難してったんだろうけど。だとしたらここも危ない⁇でも1個目の村の被害の原因は俺だしもう心配しなくていい⁇」


 そんなことを考えながら今日もいつもと変わらない作業をこなし、1日の全仕事を終えた。老婆はいつものように夕食の支度を始めたかと思えば、何やら今までに見たことない作業を始めていた。

 それは今日収穫していたブロッコリーのようなもの(てか味見もしたけど完全にブロッコリー)を、軽トラックの荷台ほどの大きなカゴに綺麗にまとめながら乗せる作業である。それを見て瑞樹はあることに気づく。


(自給自足用にしては量が多すぎたし、やっぱ売りに出してるってことだよねこれ。だとすると誰か受け取りに来てくれんのかな。でも危険だって言われて誰も来ないなんてこともあり得る。)


 結局誰かが来てくれることを祈るしかないなと改めて実感し、その日はベッドに横になった。そもそも自分が今寝ているベッドもよくよく考えれば誰のものなのだろうか。一緒に暮らしていた誰かが居たのだろうか。そしてこの婆さんはなぜ1人でこの村に残っているのか。


「わたしゃ死ぬときもこの村と一緒さね。」


 的な感じだろうか。他にも現実世界のこと、今後どうするかなど、様々なことを考え出したらきりがなく、毎日眠れなくなりそうになるのだが、農作業をして体を動かしているからだろうか。この日もなんだかんだぐっすりと就寝することができた。




ドンドン‼︎ドンドン‼︎


「ウレチキ‼︎ナヤタボユリアフ‼︎」


 ドアを叩く馬鹿デカイ音で、瑞樹は目を覚ました。何が起きたのか理解できず、寝ぼけたまま正面を見つめると、そこには1人の少女が立っていた。

 少女と言っても歳は自分と同じか少し歳下くらいであろうか。茶色い瞳に茶色い髪。ふわりとした大きな赤いスカートに、上から白いエプロンのような服をまとっている。そして頭にはスカーフのような布を巻いており、まさしくthe村娘といったような容姿をしている。顔も整っており、非常に可愛らしい。

 しかし、その可愛らしい顔も瑞樹と目があった瞬間、一瞬にして恐怖の顔へと変貌した。


「オヨンネテニナネ、ドッテボノチフ‼︎エラド‼︎」


 村娘は立て掛けてあった備中鍬のような爪が分かれている鍬を手に取ると、まっすぐ自分の元へと歩み始めた。


「あれ⁇これなんか誤解されてる⁉︎ちょっと待って別に怪しいものじゃ‼︎」


「オヤウィアナラカウ‼︎アコンネッチイナン‼︎」


「オヤドニヌオイソニツ‼︎アホチホノス、アニタム。」


「ナヤタブ‼︎」


 瑞樹が鍬で刺されそうになる後一歩のところで、老婆が村娘の動きを止めさせた。自分が無害であることを伝えてくれたのだろうか。さらに老婆は村娘に話しかけた。


「アンナエチイキサナヘドハム。」


「エェェ〜〜〜。」


「基本何言ってるかわかんないけど今何かを嫌がったことだけはわかったぞ。」


 何かを嫌がった後、村娘は唐突に瑞樹の頭を上から手で押さえこう呟いた。


「-ウカヤノフ-ウオハマクオク。」


 今までの言葉と同様理解することはできなかったが、何か違う異様な雰囲気を感じ取ることはできた。そして一瞬、瑞樹の頭と村娘の手のひらの間から青白い光が放たれた。瑞樹が呆然としていると村娘は手招きのようなジェスチャーをした後、口に手をつけ手のひらを開いたり閉じたりというジェスチャーをしてみせた。何か話せ。とでも伝えたいのだろうか。


「な、何か話せばいいんですかね⁇」


 すると村娘はうん。うん。と頷いてみせた。


「よかった。合ってた。………ってえ………⁇もしかして俺の言葉が理解できてんの⁇」


 村娘はまたしてもうん。うん。と頷いた。どうやら自分は相手の言語を理解できないが、村娘の方は完全に瑞樹の言葉を理解できているようだ。

 一体何が起きたのか。先程村娘が呟いた言葉。青白い光。完全にトリガーはあの時であろう。そうなるとやはりこれは魔法の類の力なのだろうか。



 今すぐにでも現実に帰りたくなっていた瑞樹の心に、少しだが好奇心やワクワクする感情が込み上げてきた。

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