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8話 ……いいわ、認めてあげる。あなたは……強い

 

「――お前を殺すたびに、俺はレベルアップする」



 その人間の言葉に、フィフィは首を傾げた。


「……殺すたびに、レベルが上がる?」


 にわかには信じられない。

 それは、『生まれ持ってのレベルで命の価値が決められる』という、この世界のルールを真っ向から無視するものだ。

 そんな力が存在するとは思えない。


 しかし、実際に――。

 人間のレベル刻印が、いつの間にか変化していた。

 その紋章が示しているレベルは、“44”。

 最初のレベルはよく見ていなかったが、それでもここまで高くなかったはずだ。


「でも……だから、なに? たしかに、あなたはレベルが上がったかもしれない。それでも、【輪廻炎生】があるかぎり、絶対にわたしには勝つことができないわ」


「いや、そんなことはない」


「……え?」



「不死鳥の倒し方なら――知っている」



 その瞬間――。

 人間の体を取り巻くように、複数の魔法陣がきらめいた。

 同時に、彼が地面を蹴る。


(……! 会話で魔法発動のための時間を稼いでいたのね……人間のくせに小癪な)


 人間が一気に距離をつめてくる。

 レベルが上がったからか、最初の頃よりも格段に速い。

 しかし……結局は、ただのまっすぐな突進だ。


(……芸がないわね)


 これが、“不死鳥の倒し方”だとでもいうのか。

 なにを見れるのかと、少し期待もしたが……がっかりだ。

 フィフィはとりあえず、炎を放って迎え撃ち――。



「――風王結界(フゥゼ・ルベーレ)



 ひゅお――ッ! と人間の周りで、魔法の風が渦を巻いた。

 フィフィが放った炎が、その風の膜とぶつかり――受け流される。


「……なっ」


 かなり高度な魔法だ。

 なぜ、人間がそんな魔法を使えるのかわからない。

 魔法の知識が得られる環境ではなかったはずだ。それも魔力を大量消費する上級以上の魔法なんて、低レベルでは訓練しようもなかったはずだ。

 それなのに……。


(……なぜ?)


 わからない。ただ、1つだけわかることは――。

 人間が減速すらせずに、炎の中を一直線に突き抜けてきたということ。

 攻撃が受け流された今、フィフィの攻撃はただの“隙”でしかなくなった。


「……こ、このッ!」


 とっさに拳で迎撃しようとするも、読まれていたかのように回避される。

 人間は流風のごとく、するりとフィフィの懐にもぐり込み――。



「――風王剣(フゥゼ・ハルテ)



 ひゅん――ッ! と。

 鋭利な魔風をまとったナイフが、フィフィの胴体を心臓ごと両断した。


「……ぐ、ぅ……ッ」


 致命傷――またしても意識が飛ぶ。

 また死んでしまった。

 おそらくは、またレベルアップもされてしまっただろう。


(……! そういうことね)


 そこで、フィフィは察する。

 この人間は、不死鳥の無限の命を喰らい続け――。

 やがては、フィフィよりも高みのレベルへと上りつめるつもりなのだ。


「……人間の……くせに……ッ」


 フィフィがふたたび灰から蘇生する。

 これまでの戦闘から、蘇生直後に人間が攻撃してくることは読めていた。

 だから、相討ち狙いで拳を前に突き出し……。


「……え?」


 目の前に人間がいない。

 今までとは違い、なぜか間合いが開いている。

 と、同時に。

 ひゅん――ッ! と飛来した真空波が、フィフィの首をはねた。


「……っ!?」


 そこで、ようやく気づく。

 この人間は、『フィフィが人間の攻撃を読んで反撃する』ということまで読んで間合いを取ったのだ。

 そして、蘇生直後の一瞬に当たるタイミングで遠距離攻撃を放った……。



(……な、なに!? なんなの、この人間は!?)



 たしかに、フィフィは人化したまま戦うのは初めてだった。

 もちろん、人間の体の動かし方に慣れているわけではない。


 それに、人化している状態では力も弱まる。少しでも本気を出そうとすれば、その前にこの肉体が消し飛んでしまうからだ。

 肉体の限界まで力を出したところで、レベルで言うと60ほどの力しか出ないだろう。


 それでも、この人間の相手をするのには充分すぎるはずだった。

 そのはずなのに……。


(どうして、当たらないの……!?)


 フィフィの反撃は、全て空を切る。

 一方で、人間の攻撃は確実にこちらに傷を負わせてくる。

 人間の動きが速いわけではない。速さではフィフィのほうが上なのだ。


 それなのに――遅れを取る。


 それもそのはずだ。

 魔物の戦い方は、力によるゴリ押しがほとんどなのだから。

 ゆえに、フィフィは"技"を知らない。

 打撃を、斬撃を、刺突を、カウンターを、防御を、回避を、足さばきを、目付けを、牽制を、つなぎを、フェイントを、間合いを、ありとあらゆる駆け引きを――知らない。


 “技”とは傷つかずに傷つけるための術。

 “技”とは弱者が強者を喰らうための術。

 そんなものは、不死鳥のフィフィにとっては必要のないもの――だった。

 だから、理解できない。対処できない。


「……こ、のッ……いい加減に……ッ!」


 フィフィが炎を放つが、またしても空を切る。

 戦い方が単調なせいで、動きを予測されたのだろう。

 人間はフィフィが動きだすよりも先に、ぐっと低く身を沈めていた。



「――風王剣(フゥゼ・ハルテ)



 縦一直線の斬撃が飛来し、フィフィの体を両断する。


「……う、ぐ……っ」


 絶命する直前、なんとかフィフィは反撃を試みるも――当たらない。


(……一発……一発でいいのに)


 一発でもまともに攻撃を当てられたら、人間なんて無力化できるのに。


 ――当たらない。


 レベルの差は歴然なのに、一方的に押されているのはフィフィのほうだった。

 さらに人間はレベルアップを重ねて、どんどん動きが速くなっていく。


 力の差が急速に縮まっていく。

 このままでは、追いつかれ――追い抜かれる。



(……これが、人間の力……!)



 と、そのとき――。

 ざり……っ、と足元から今までと違う感触が返ってきた。


 フィフィはそこで、はっと気づく。

 いつの間にか、自分が崖の縁まで追い込まれていたことに……。


(このわたしが……退いたの……?)


 いくら人化しているとはいえ……人間ごときに対して、魔界七公爵である自分が?


(……ありえない)


 彼女のプライドがその現実を拒絶する。

 しかし、認めるしかない。


 こうなった理由は、いくらでも挙げられるだろう。

 ただ、おそらく一番の理由は――。



 ――この人間を、侮っていた。




「ふ、ふふ…………あ……ッははははははは――ッ!」


 ……不思議だ。不思議だ。不思議だ。不思議でたまらない。

 本気じゃないとはいえ、圧倒的なレベルの差がある不死身の魔物に対して、この最弱にんげんは恐れることなく挑みかかり……。


 そして――圧倒したのだ。


 こんなこと、今までにあっただろうか?

 こんな人間、今までにいただろうか?


「とても……とっても面白いわ、あなた」


 相手が人間だからとなめていたが、フィフィはようやく認識を改める。


 ――この人間は、危険だ。


 けっして、小さな鳥かごの中に収められる器ではない。

 これは、“食われる側”ではなく――“食う側”の生き物だ。



「……いいわ、認めてあげる。あなたは……強い」



 ふいに、フィフィの体から一段と激しい炎が上がった。

 炎が渦巻きながら、卵殻のように彼女の体を包み込み、そして――。


「だから、特別に……本当のわたしで、あなたを殺してあげるわ」


 人化を――解く。

 少女の体がびきびきと変形し始める。

 まるで鳥がさらに羽化でもするように、背を飾っていた炎の翼が膨らんでいき、肌からは紅い羽毛が生えてくる。


 “太陽の化身”と崇められるレベル77の不死鳥――。

 その真の姿へと、少女は変貌していく。


 今まで誰かに本気を見せたことなど、彼女の永い生涯をもってしても数えるほどにしかなかった。

 それも人間相手になんて、そんなことは高レベルの魔物としてのプライドが許さなかった。


 だが、この人間には100%の力をもって相手をしよう。

 自分の矜持と、この人間への敬意のために。


 フィフィが真の姿に戻った瞬間――この戦いは終わる。

 人間など、灰の1粒も残らず消え失せるだろう。


 だから、彼女は優しく微笑んだ。

 この戦いの終幕に、そっと花を添えるように。


「さぁ、美しく灼かれなさい。今からあなたが見ることになるのは、わたしの究極の核融合魔……」





「――――隙ありィイィッ!!」





「え、ちょっ……」


 変身中に、普通に斬りかかられた。


 全身の腱に神経に筋肉――。

 体の動きに制限がかかる部位に、次々と的確にナイフがねじ込まれていく。

 対処しようにも、変身途中の半端な体ではうまく動くこともできない。



「うおおおォオォ――ッ!! これが、人間の力だァァ――ッ!!」



「い、痛っ……ちょっ、待っ……! やめ……! いったんストップ……!」


 人間の攻撃は止まらない。それどころか――加速していく。

 まったく躊躇いがない。容赦がない。



「ず……ずるいっ!」



「知るか! この世は勝ったもん勝ちだ!」


 人間が仕上げとばかりに、どんっ! とナイフを突き刺しながら体当たりしてきた。


「ぐ、ふ……ッ!?」


 半端に変身した体では踏ん張りがきかず、がくっと足を崖から踏み外し――そして、浮遊感。


 スローモーションで体が傾いていく。

 体から剥がれ落ちた紅い羽根が、はらはらと花吹雪のように舞うのが妙にはっきりと見てとれる。

 そんなゆっくりと移り変わる世界の中で――。


「なぁ、不死鳥」


 人間が悪魔のように笑った。



「――お前、炎がなくても蘇れるか?」




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