表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で俺だけが【レベルアップ】を知っている(Web版)  作者: 坂木持丸
第11章 死天使セラフィム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/66

59話 大聖堂


 ルークを討伐したあと。


「…………」


 聖剣の光が収まってからも、俺はしばらく無言で立ち尽くしていた。

 頭上には、新たな対魔物結界が張られている。

 この町に残っていたグールたちは、この結界によって消滅しただろう。

 だけど、気分が晴れることはない。


『ねぇ、今どんな気持ちなのかしら?』


 フィーコがからかうように尋ねてくる。


『同じ人間に裏切られて、魔物になって襲われて、それを自分の手で殺すことになって。悔しいのかしら? 悲しいのかしら? みっともなく声を上げて泣きたいのかしら?』


「…………その全てだ」


 聖剣を握る手にぎりっと力を込める。

 ルークとは外の世界について話し合った。


 もしかしたら、救うこともできたかもしれない。

 もしかしたら、一緒に冒険する仲間にだってなれたのかもしれない。


『まったく……あなたは人間に甘すぎるわね。この程度の悲劇は、この世界のどこにでも転がってるでしょう?』


「ああ、その通りだ」


 この世は食うか食われるかだ。

 正しさも、優しさも、美しさも、踏みにじられるのは当然だ。


「だから、俺は――この世界を赦さない」


 俺は魔剣を地面から引き抜き、大聖堂へと歩みを進める。

 左手には漆黒の魔剣。右手には純白の聖剣。


 もはや、俺の道をさえぎるものはない。

 全ての元凶であるセラフィムはこの先にいる。

 だが――。


「……っ……っ」


 一歩が……重い。

 黒々とした底なし沼の中で、もがき進んでいるかのようだ。

 本能が逃げろと訴えかける。全身が前に進むことを拒否する。


 それでも、進む――進み続ける。

 そして、大聖堂の扉の前にたどり着いた。


「……………………」


 扉の前に立った瞬間――理解する。

 この先に、セラフィムがいることを。

 扉越しでも理解させられる。


 ……こんなの、勝てる相手じゃない。


 戦うべき相手じゃない。この先に進んではいけない。

 肉体が、魂が、本能が、理性が、知識が、経験が、計算が……。

 ――“止まれ”と警告する。


「……っ……はっ……はッ」


 進むな、止まれ、行くな、負ける、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ――――。


 心臓が暴れる。汗がどくどくと流れ落ちる。呼吸ができない。吐瀉物が喉元までせり上がる。耳鳴りがする。目眩がする。

 心がくじけそうになる。あきらめたくなる。止まりたくなる。

 それでも――。



 ――人間みんなを、魔物ぼくたちから救ってください。



 約束を、思い出す。


「……フィーコ」


『なにかしら? もしかして、ここまで来て怖気づいた?』


「……勝つぞ」


『勝算はあるの?』


「ない。だが、勝つと決めた」


『へぇ……? それは楽しみね』


 フィーコが愉快そうに笑うと、俺の体へと飛び込んだ。


『いい? わたしはまだ、あなたで遊び飽きていないの。あなたを壊していいのはわたしだけ。セラフィムごときに勝手に壊されたら――食い殺すわよ?』


「安心しろ。俺には世界一やっかいな敵どもが憑いてるからな」


 俺ではセラフィムには絶対に勝てない。

 だが、俺は1人じゃない。

 だから、もう迷わない。止まらない。



「――俺たちで勝つぞ」



 俺は両手の剣を振り抜いた。

 目の前にある大聖堂の扉を――斬り開く。

 ずしん……と埃を立てて倒れる重厚な扉。

 その先に、大聖堂の厳かな広間が現れた。


 大聖堂の中に灯りはなかった。

 宙に舞っている純白の羽根たちが、ぽつぽつと光を発して内部を照らしている。


「…………」


 俺はゆっくりと大聖堂の中に、足を踏み入れた。

 正面から堂々と、両手に抜身の剣をたずさえて。

 祭壇まで一直線に敷かれた赤絨毯の上を、進んでいく。


 その赤絨毯の道の先――。

 薔薇窓からの月光に照らされた壮麗な祭壇。

 そこに、純白の天使がいた。


 この世のものとは思えない神々しい姿。

 天使の最高位を表す6枚の翼。

 そして、その頭上に輝いているのは――レベル75を示す光の輪。

 間違えたくても、間違えようがない。



 ――死天使セラフィム。



 この地獄の夜の元凶が、そこにいた。



ページから離れるさいには、

広告下にある「☆☆☆☆☆」をクリックして、応援していただけるとありがたいです!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『世界最強の魔女』11/7、漫画10巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023i595023

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『ラスボス、やめてみた』漫画7巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『時魔術士』漫画3巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『レベルアップ』漫画5巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『装備枠ゼロの最強剣士』漫画7巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ