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この世界で俺だけが【レベルアップ】を知っている(Web版)  作者: 坂木持丸
第10章 結界都市シーリア

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48話 天使襲来


 ――結界都市シーリア。


 それは、対魔物結界に覆われた、人間最後の自治都市。

 その都市の中央にある大聖堂に、その日――。

 ふわり……と、白い羽根が舞った。



「――聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな」



 歌うように言葉をつむぎながら、女が大聖堂に足を踏み入れる。

 その堂々とした来訪に、その場にいた誰もがしばらく――“敵襲”だと気づけなかった。


「な……なん、だ……?」


 大聖堂につめていた結界騎士たちが、呆けたように来訪者を見る。


 6枚の純白の翼をきらめかせる、白い衣の女。

 2枚の翼が仮面のように顔を覆っているが――しかし、顔が見えなかったとしても、彼女のこの世のものとは思えない美しさが損なわれることはない。


 彼女は恐怖さえ感じるほどに美しかった。

 まるで――人間ではないかのように。


「おめとうございます」


 天使はいきなりそう言った。


「私は魔界七公爵が1柱――死天使セラフィム様であらせられます。ありがたいことに、聖なる私はあなた方“下等生物(にんげん)”ごときを救済なさるためにいらっしゃいました」


 どこまでも上からの――まるで、雲の上からの目線の言葉。



「…………ま……魔物、だ」



 最初に我に返ったのは、結界騎士団長の青年ルークだった。


「て……敵襲ッ!」


 ルークが叫ぶとともに、剣を抜いて頭上に掲げた。

 周囲の結界騎士たちも、はっとしたように一斉に抜剣する。


「ま、魔物だ!」「な、なんで結界の中に!?」「と、とにかく聖剣を守れ!」「人が魔物に勝てるわけないだろ!?」「あ、相手は1匹だ! 俺たちが束になればきっと……!」


 ふわりふわりと羽毛のような足取りで歩み寄ってくるセラフィム。

 騎士たちが震えながら、その剣の切っ先を彼女に向けた――瞬間。


「…………え?」


 ――ぱんっ。

 と、小さな湿った破裂音がした。

 同時に、剣を抜いていた騎士たちが、一斉に血飛沫を上げた。


 彼らがその場に倒れ伏す。

 がらがらと鎧が床に落ちる金属音が、遅れて礼拝堂に反響した。

 倒れた騎士たちは――全員、絶命していた。


「な……なに、が……?」


 ルークを含め、生き残った騎士たちが呆然と立ち尽くす。

 天使はなにもしなかった。

 速すぎて見えなかったとか、そういう次元ではない。


 ……本当に、なにもしなかったのだ。


 騎士たちに顔を向けることも、指先を動かすこともせず。

 ただこちらに歩いてきただけだった。

 それなのに、騎士たちは死んだ。


「ああ……死んでしまうとはかわいそうに。慈愛に満ちた私は、とても憐れにお思いです」


 天使が悲しげに涙を流す。


「やはり、人間は愚かな生き物です。いきなり、この聖なる私に剣を向けるとは。この偉大なる私が正しくお導きにならねばなりません」


「な、なにを、した……のですか?」


 ルークが慎重に問う。


「……? 私はなにもなさってはいませんよ?」


「……え?」


「彼らは聖なる私に武器を向けたので、心臓が破裂して死にました。この世界はそういうルールで回っているのです」


「…………」


 なにを言っているのか、ルークには理解ができない。

 ただ、彼女が嘘を言っていないことは、周囲にいる仲間たちの死体が物語っていた。


 ――これが、魔物の力。


 想像の外にいる化け物が、ゆっくりとルークに歩み寄る。

 まだ若い青年のルークには、この都市の誰よりも実力があった。

 今までこの都市の結界を魔物から守るために訓練してきた。


 古代人間文明の遺物――“聖剣・白夜ノ剣”による結界があれば、魔物に脅かされることはないとバカにされることもあったが。

 それでも、魔物から結界を守れるように、いつの日か魔物の支配から人類を守れる“勇者”になれるようにと……ずっと訓練を重ねてきた。


 だからこそ、わかる。

 そのせいで――わかってしまう。

 この場にいる誰よりも、残酷な理解を突きつけられる。


「さて、それでは生き残った下等なあなた方ごときには……聖なる私のお言葉を拝聴することをお赦しになってあげましょう」


 ルークは壊れたように薄く笑いながら、その場にひざまずいた。

 人間ごときが、こんな存在に勝てるわけがない。“勇者”なんてものは夢物語だ。


 自分の努力は全て無駄だった。

 どんなに努力しても、どんなに知恵を回しても、どんなに勇気をふりしぼっても……。



 ――人は、魔物には勝てないんだ。



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