45話 蹂躙
俺とミミスケは魔物の大群と対峙する。
「それじゃあ――反逆開始だ」
戦闘の合図に、“風王剣”を敵陣に叩き込んだ。
すぱぱぱぱぱぱ――ッ!
と、鋭利な風刃が魔物の群れをまとめて輪切りにしていく。
「ぐわあぁああッ!?」「ば、バカな!? あいつ人間じゃないのか!?」「なんで、人間がこれほどの魔法を……!?」
混乱する魔物たち。
もはや連携もクソもない。ただ逃げ惑うだけの烏合の衆と化していた。
その様子を、フィーコがドヤ顔で眺める。
『……ふっ、見たかしら? これが、わたしたちの力よ!』
「しれっと戻ってくるな、裏切り者」
『わたしは楽しく暴れられそうなほうにつく! それだけよ!』
フィーコも魔物たちに炎の爆撃を放ちだす。
魔物たちが風に斬り裂かれ、炎に焼かれ、牙に食われる……。
「人間の一味が、なんでこんな力を……!」「た、助けて……! サイクロプス様……!」「くそォッ、人間ごときにィィ……!」
まさに、蹂躙。
つい先ほどまで100以上もいた魔物たちは、またたく間に数を減らしていく。
魔物たちにとっては地獄のような戦場だろう。
その中で、俺たち3人だけは笑いながら一方的な殺戮劇をくり広げる。
「最近の魔物はいいサービスしてるな。わざわざ喰われに来てくれるなんて」
『わたし知ってるわ。これって、流行りの“フードデリバリー”ってやつよね』
「おい、人間……“タレ”をよこせです。同じ味ばかりで飽きてきたのです」
「なッ……なんなのだ……!? なんなのだ、貴様らは……!?」
唖然とするサイクロプス。
「ぬぐ……ッ! バカな、バカな……バカなバカなバカなバカな……ッ!!」
「さて……次はお前の番だ」
地面の砂を風で操り、兜の中にあるサイクロプスの目へと送り込む。
「ぬぅッ!?」
サイクロプスの弱点は、その1つ目だ。
的がでかいうえに1つしかないから替えも効かない。
巨大な目に大量の砂が入ったサイクロプスは、うめきながらよろめく。
その隙に俺はサイクロプスの体に飛び移り、駆け上がり、その眼前で剣を振りかぶった。
「――“物質強化”!」
剣に最大の強化魔法をかけ、サイクロプスの眼球へと刺突を放ち――。
ぎぃン――ッ! と。
剣の刺突が腕鎧によってふさがれた。
「くくく……わかりやすい弱点があるというのはいいものだな。皆、愚直に弱点を狙ってくれるわ」
「……っ!」
思ったよりも鎧が硬い。
鎧を貫くことができない――どころか、こちらの剣にびきびきと亀裂が走る。
「そんな、鈍剣で……我が鎧を貫けると思うな!」
サイクロプスが気合いで目をこじ開けるとともに、背負っていた大剣を俺に向けて抜き放った。
「――ぬぅんッ!」
そのレベル61の巨体からくり出される大剣の一撃。
それが軽いものであるはずがない。
しかし、空中ではとっさに避けられない。
俺はとっさに手にした剣で受け流そうとし――。
「……なっ!?」
ごぅうう――ッ! と。
暴風が吹き荒れるような一撃とともに。
最大限まで強化していた剣が――しゅっ、と消し飛んだ。
折れたのでも、斬られたのでもなく、砕かれたのでもなく。
あまりの威力に剣身が消えたのだ。
「わわっ!?」『ちょっ!?』
ずぅううん――ッ! と。
地響きのような音を立てて、大地を真っ二つに割り開く大剣。
その刃から放たれた剣圧が、はるか遠くまで地割れをうがつ。
俺の背後にいたミミスケたちはとっさに回避できたようだが、サイクロプスの仲間の多くは剣圧で消し飛ばされていた。
サイクロプスがふたたび剣を振りかぶりながら笑う。
「……人間よ、認めよう。たしかに貴様は強い。力も、技術も、どれも我よりも上だ。だが――武器が貴様に追いついていないな」
「なに?」
「見るがよい、これが本物の剣だ」
サイクロプスが手にした剣を掲げる。
その剣を直視した瞬間――。
「……っ!」
ぞくっ、と悪寒が走った。
それは、禍々しい異形の剣だった。
今まで見てきたどんな剣とも、似ず非なる剣。
剣というより、牙。
牙というより――炎を思わせる。
憎悪を、憤怒を、呪詛を、怨念を――。
あらゆる負の想いを、その刃ひとつで体現しているかのように。
ねじれ、うねり、歪み尽くされた魔性の剣。
おそらくは、ノコギリ状の刃で獲物に牙を突き立て、食いちぎるように――削り斬る剣なのだろう。
摩擦熱のためか、しゅぅう……と刃からは熱気の煙が上がっている。
「この剣に比べて、貴様の貧相な剣はなんだ? その量産品では、全力で振ることもままならないのだろう? 最大限まで強化魔法を使ってすら、壊れないように注意して振らねばなるまい」
「…………」
さすがは、世界最高の鍛冶種族か。
この短時間でそこまで見抜くとは。
そして、なにより……甘く見ていた。
サイクロプスのレベル61としての強さが、その肉体ではなく、その武具にあるということを。
「そんな玩具では、魔界では通用せん。冥土の土産に見るがいい、我が剣の斬れ味を」
サイクロプスが、ふたたび剣を振りかざし――。
「――魔剣よ、全てを喰らい尽くせ」
そして、連撃――。
技など知らぬとでも言わんばかりに、ただ力任せにめちゃくちゃに振り回す。
どどどどどどど――ッ!
大剣から放たれた凄まじい剣圧が、辺り一帯をめちゃくちゃに斬り裂いていく。とっさに膝を落とすと、ごぅぅ――ッ! と、すぐ頭上を衝撃波が通り過ぎた。
「ぎゃあぁあ……!?」「サイクロプス様、なぜ……!?」「まだオレたちが……!」
わずかに残っていた味方ごと、戦場を斬り裂くサイクロプス。
乱心したのではない。
冷静に、確実に、この状況を打開する一手を取ったのだ。
おそらく今までは、配下の軍勢が足かせとなって全力を出せなかったのだろう。しかし、味方を切り捨てると判断した今このとき、サイクロプスは鞘から解き放たれるように全力を出せるようになった。
「貴様らはどうせ死ぬ! ならば、我が魔剣の糧となれ!」
その言葉とともに、魔物の死体から立ち昇った光が、魔剣へと吸い込まれていく。
その光景はまるで――。
「――【レベルアップ】?」
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