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この世界で俺だけが【レベルアップ】を知っている(Web版)  作者: 坂木持丸
第8章 人喰山脈

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41話 共闘


 まるで天地そのものを相手にしているような巨大なミミック。

 それに対して、俺たちは2人、小さな背中を合わせて構えを取る。


「それじゃあ――――反逆開始だ」


 その言葉を合図にするように、無数の舌が襲いかかってきた。


『遊ぼウよ!』『笑顔は魔法ダ!』『こンにちハ!』


 俺たちは同時に魔法を放つ。



「――雷王剣ヴォルツ・ハルテ!」『――炎王手フェオ・ナルグ!』



 ほとばしる雷光と爆炎が、ミミックの体内を蹂躙する。

 これには、さすがの巨体でも大きなダメージが入ったらしい。

 体内が大きく震動し、ミミックが悲鳴を上げる。


「出がらしの霊体のくせになかなかやるな。正直、ふよふよしてるだけの生き物かと思ってたぞ」


『見くびらないでくれるかしら? 今のわたしでも、これぐらいはできるわ。もちろん、相手は野良限定だけど』


「野良限定?」


『だって、魔界傘下の魔物と戦ったら……いざってときに、責任回避ができなくなるじゃない』


「お前、そんな理由で……」


 とはいえ、野良の魔物相手ならば普通に戦うつもりらしい。

 まあ、フィーコと殺し合ったときと比べれば威力は低いが、それでも充分な戦力になる。とくにこの戦闘では手数が必要だ。


「いいか、フィーコ! ここは敵の腹の中だ!」


 俺は風の刃でミミックの舌を斬り払いながら叫ぶ。


「腹の中が弱点じゃない生物なんていない! つまりは、目に見えるもの全てが敵の弱点だ。なにも考えなくていい。狙いなんてつけるな。とにかく――暴れまくれ!」


『言われなくても!』


 ミミックの体内が炎上し、青白い雷光に覆われていく。

 体内空間の震動がだんだん激しくなっていく。


『…………』『…………』『…………』


 と、そこで――ミミックの動きが変わった。

 おそらく、俺たちの脅威認識を改めたのだろう。



『――仲間』『……仲間』『……仲間……』『仲間……』『……仲間』『……仲間……』『仲間……』



「……っ!」


 生肉の地面からうねうねと無数に生えてきたのは――俺とフィーコだった。


『オレたちは仲間ダ!』『わたしタチは仲間よ!』『仲間って素晴らシいな!』『絆の力は無限大ダ!』『あなタも仲間にナりまシょう!』


 俺とフィーコの偽物たちが口々に叫ぶ。

 大量の偽物に埋もれて、もはや本物のフィーコがどこにいるかわからない。

 ミミックが、にたぁり……と嫌らしく笑う。



『――仲間、攻撃デきる?』



「できる」『できる』


 俺たちは同時に即答し、偽物たちを瞬殺した。

 むごたらしく殺されていく俺たちの偽物たち。


 人間は仲間を大切にするとでも思ったのだろうか。

 俺たちにとってはストレス発散の機会にしかなっていないが。


『……!?』『……!』『…………!?』『……!? ……!?』『……ナンデ!?』『ナンデ!?』『ナンデ!?』『……ナンデ……!?』『……ナンデ!?』『……ナンデ!?』『ナンデ!?』『……ナンデ……!?』


 あきらかにうろたえるミミック。

 余裕がなくなってきたのか、だんだんと演技の皮も剥がれてきたようだ。

 それはそうと。


「おい、アホインコ……今、わざと俺に当てようとしたよな?」


『ちょっと、テオ……今、わたしにも当たったんだけど』


 戦場の中、むぐぐ……と睨み合う。


『ふふふ……もしかして、わたしと喧嘩したいの?』


「ははは……喧嘩? 一方的な殺戮の間違いだろ、おっちょこちょいめ」


『ふふふ……一度、どっちが上なのかはっきりさせたほうがよさそうね』


「ははは……そうだな。もう一度、どっちが上なのか教えてやるよ」



『え……』『あ、あの……』『ちょっト、なにヲ……』



 そして、俺たちは――互いに向けて、同時に魔法をぶっ放した。


「ははは! 待て待て~! 風王剣フゥゼ・ハルテッ!」


『うふふ! 捕まえてごらんなさ~い! 炎王手フェオ・ナルグッ!』


『ちょっ……』『い、痛イ……!』『や、やメて……!』『喧嘩シないデ……!』


 ミミックが悲鳴を上げる。



『――仲間ハ、もっと大切にシよウよ!』



「うるさい」『うるさい』


 同時に、ミミックの口へと魔法を叩き込む。

 それが重いのほか大ダメージになったのか。


『『『――――ィィイッ!?』』』


 ミミックが今までよりも大きな悲鳴を上げた。

 かと思えば――。


「うお……!?」『……ふぇ!?』


 ぼよんぼよんぼよん……と。

 突然、ミミックの体内が波打つように揺れだした。

 今までも揺れていたが、その比ではない。まともに立っていられないほどの揺れだ。


 ミミックの攻撃かと思ったが――違う。

 むしろ、先ほどまでとは打って変わり、間断なく飛んできた攻撃がぴたりと止まる。


『なにかしら? どうせなら、必殺技の準備とかだったら面白いんだけど……』


「ん……肉が、壁のほうに移動している?」


 まるで、壁に開いた穴をつくろうように、うねうねと移動した肉たちが壁を補強していく。

 そこで、はっと気づいた。


「……っ! フィーコ、壁だ! 壁を狙え!」


『ふぇ?』


「この壁は人喰山脈を支える柱だ! 壁をぶっ壊せば、人喰山脈は――崩壊する!」


『……っ!』


 最初から疑問に思っていたのだ。

 このミミックは、普通に戦っても強い。

 ならば、なぜ最初から普通に戦わないのだろうか……と。


 獲物をわざわざ罠にはめて、戦意を失わせるような擬態を見せて、じわじわと溶かしていって……などと、まどろっこしいことをしなくても、こいつが不意打ちで攻撃すればたいていの敵は殺せるだろう。


 しかし、もし……山に擬態するのに手一杯なのだとすれば。

 巨体による自重に耐えるだけで精一杯で、ただ動くだけでも負担が大きすぎるのだとすれば。壁が少し傷つけられるだけでも、崩落の危険性があるのだとすれば……。


 このミミックの行動に説明がつく。

 そもそも……なんの代償もなく、こんなにでかくなれるわけがないのだ。


『人喰山脈を、潰す……? そんなの――』


 フィーコがうつむいて、ふるふると震えたかと思うと。



『――――面白すぎるわ!!』



 その瞳が、血に歓喜するように紅々と輝いた。


「――雷王剣ヴォルツ・ハルテ!」『――炎王手フェオ・ナルグ!』


 ずぅぅん……ずぅぅん……と。

 爆炎と雷鳴がミミックの体内を震わせる。

 ミミックが壁を守ろうと、必死に肉を集めるが――間に合わない。


 集中的にえぐられていく壁や天井から、燃える目玉や肉塊がぼとぼとと降り注ぐ。

 やがて、その中に土砂のようなものが混ざり始めた。


 ――人喰山脈の崩壊が、始まったのだ。


 もはや、背負っている山を支えきれないのだろう。

 あとはもう、自重に耐えきれず――潰れるだけだ。

 ミミックはその現実を受け入れられないのか。



『――う、嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ!』『嘘ダ――ッ!』



 ただ、癇癪を起こした子供みたいにわめき続ける。

 もはや、余裕を取りつくろうことさえできないらしい。

 その目玉は腹の中にいる俺たちへの恐怖と憎悪で見開かれ、血の涙をどくどくと流す。


『人間……ッ!』『人間ガ……ッ!』『人間の分際デ――ッ!』


 結局のところ、騙されていたのはミミックのほうだった。

 俺たちをただの“レベル1の人間”と“下級霊”だとでも思ったのだろう。

 だからこそ、まんまと近づいてきた獲物を嘲笑いながら――まんまと弱点だらけの腹の中へと招いてしまった。


「……食べる相手は選ぶべきだったな、ミミック」


 物語においては、巨大な魔物の末路はだいたい決まっている。

 それは――『食った人間に内側から喰い返される』、だ。



『……あ……ぁあ……ぁああぁあァァァア――ッ!!』



 みし、みし、みし……と。

 壁や天井に亀裂が走っていく。

 その亀裂が体内中を駆けめぐり、そして――。

 ついに、どばっと天井が一気に崩落した。


「……っ! フィーコ、来るぞ!」


『わかってるわよ!』


 どどどォォオ――ッ! と。

 世界が圧し潰されるように、頭上から肉塊や土砂が降り注ぐ。


 山崩れという言葉ですら、軽く感じるほどの規模の崩落だ。

 もはや山そのものが、ひっくり返ったかのような光景だった。


「それじゃあ……最後に1発ぶちかますぞ」


『わたしに指図しないでくれるかしら?』


 俺たちは同時に、頭上へと手のひらを掲げた。

 呼吸は合わせない。合図も目配せもなしだ。

 ただ、今できる全力を――それぞれ勝手にぶっ放す。



「――風王千槍フゥゼ・ケルベス!」『――炎王千鳥フェオズ・リンド



 ごぉぉおおお――ッ!! と。

 真上に向かって放たれた風と炎が混じり合い、1つの炎の竜巻となる。

 炎の竜巻が、崩落した山と衝突する。


 拮抗は一瞬――。

 炎が崩落してきた山を食い破り、吹き飛ばす。

 そのまま、噴火するように空へと突き抜け、そして――。


 ――雲を、貫いた。


 やがて、炎がかき消えるとともに。

 ぱぁぁぁ……と、辺りに光が降り注ぐ。

 見上げれば、そこにあるのは――本物の青空だ。


「………………」


 完全に沈黙した人喰山脈の中に、爽やかな風が流れ込む。

 その風に漂うように、ふわりと青い光が手の甲へと吸い込まれてきた。

 かちり、と俺のレベル刻印が変化する。

 レベル64からレベル65へと――。



「――――討伐完了だ」



……というわけで、8章終了です!

ここまで読んでいただきありがとうございました!


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