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この世界で俺だけが【レベルアップ】を知っている(Web版)  作者: 坂木持丸
第7章 世界地図

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34/66

33話 セイレーン戦後

お待たせしてしまい申し訳ありません……。

なんとかかんとか、ストックがたまってきたので連載再開します。


仲間ができたり強武器を手に入れたりと、ここから盛り上がっていくので、またお付き合いいただければなと思います。

むしろ、この物語で本来やりたかったことは、この先にほとんどつまってるんですよね……。

セイレーン戦まではまだチュートリアルという感覚だったので。


【告知】

本作のコミカライズがスタートしています。

ページ下のほうに無料公開してるページのリンクが貼ってあるので、ぜひ。

アクションシーンに長けた漫画家様に担当していただいたので、めちゃくちゃクオリティが高いです。


【前回までのあらすじ】

人間が“最弱種族”として魔物に虐げられている未来に転生したテオ。

彼はレベルアップをして魔物たちの支配から脱したあと、不死鳥のフィーコ(誇り高くて美しい)を仲間にし、なんやかんやでセイレーンを倒して人間の町を解放する。


 セイレーンを倒した翌日。

 俺は町中にある屋台前で、“甘きもの”――プリンに舌鼓を打っていた。


 これは『“歌鳥”に選ばれた妹を助けてほしい』という依頼の報酬だ。

 今度こそまともに食べることができた甘味に、思わず涙ぐむ。


「ようやく、食べることができた……」


『な、泣いてる……』


 フィーコにドン引きしたような顔をされるが、どうでもいい。


『それにしても、平和すぎてつまらないわ』


「平和、か……たしかにな」


 周囲を見ると、町はどこもかしこもお祭り騒ぎ。

 あちらこちらから平和な喧騒が聞こえてくる。これまで抑圧されていた分、たがが外れているのかもしれない。


 まるで世界が平和になったかのような光景だが……。

 おそらく、この世界でこんな自由で平和な人間を見ることができるのは、ここだけだろう。


「……昔はどこも、こんな感じだったんだけどな」


『ん、なにか言ったかしら?』


「いや、なんでもない」


 思い出すのは、俺が生まれるより前――前世の記憶だ。

 史上最強の冒険者テオ・ロードとして名を馳せていた時代。

 そのときは人間と魔物は、良くも悪くも対等だった。


 対等に、平等に、健全に――殺し合っていた。


 世界は平和ではなかったが、今ほど悪くはなかったと思う。

 つい懐古に浸りたくなるのも仕方ないだろう。


『まったく、家畜にんげんごときが笑ってるのは気に入らないわね……そうだわ、この街にいる家畜にんげんたちを使ってデスゲームを開催するのはどうかしら? あの希望に満ちた笑顔を歪ませながら、身内同士で殺し合わせるなんて……ふふふ、とても面白いと思わない?』


「それよりプリン食べるか?」



『――食べるぅ!!』



 誇り高き不死鳥、単純だった。

 俺の体の中にすぽんっと憑依したフィーコが、俺の体を勝手に動かしてプリンを食べる。


『びゃあぁ~、うまぴゃあぁあ~……!』


「俺の口からキモい声出すな」


『ふんっ、まあまあの味ね。及第点をあげてもいいわ』


「まあまあの味のリアクションじゃなかっただろ」


『……で、わたしにプリンをくれるなんて、どういう風の吹き回しかしら?』


「いや、昨日の依頼は、一応協力して達成したわけだしな。たとえお前の活躍がゼロに等しくても、報酬の分配はきっちりしようとしただけだ」


『へぇ……?』


「あくまで、もう1口だけだからな。取り分としては、それぐらいの比率だろ」


『あと1口、ね……それじゃあ、遠慮なくいただくわ』


 フィーコが意味深に笑うと、プリンの皿を頭上に高々と掲げた。


「……は? お前、なにを……」


『ねぇ、ところで……いいことを教えてあげるわ。プリンは――飲み物よ』


「……っ! お、お前、まさかッ!」


 その言葉で、次の行動に嫌でも予想がついてしまった。


「や、やめろッ!」


 プリンの皿が傾けられ――そのまま口の中に流し込まれる。

 慌てて体の中に戻ったが、時すでに遅し。


「あ、ああ……あぁああ――ッ!?」


 プリンはもはや喉の奥へとすべり落ちた後だった。

 ごくん、と自分の喉が上下するのを、俺は黙って感じていることしかできない。


「な、なぜだ! なぜ、こんな残酷なことができるんだ……!」


『なぜ? ふふふ……なぜ、と言ったのかしら? 愚問ね、そんなのは決まってるでしょう?』


「な、なに?」


『あなたの絶望に歪んだ顔を見ながら食べるプリンが格別だからよ!』


「そ、そんな理由で、こんなことを……ッ!」


『もしかして、あなた……これまでの冒険を通して、わたしに仲間意識でも芽生えちゃったのかしら? わたしを信頼しちゃったのかしら? ふふふ、甘いわ……このプリンよりも甘い。わたしとあなたは、あくまでも食うか食われるかの関係。そんな敵にプリンを与えればこうなるのは……当然のことでしょう?』


「く、くそっ……くそぉおお――ッ!」


『ふふふ……! そうよ、もっとわたしを憎みなさい! わたしにプリンを与えたことを悔やみなさい! この屈辱の記憶を未来永劫、頭に刻み込むがいいわ! ふふふ……あ――ッははははッ!』



「え、えっと……」「あ、あいかわらず仲がいいんですね」



 と、近くから声をかけられた。

 顔を上げると、そこにいたのは――。


「ん? あ、ああ……お前らか」


 昨日、セイレーンから助けた兄妹だ。名前は忘れた。

 まあ、見るからに魔物であるフィーコがいるせいで、俺たちに話しかけてくるのはこの兄妹ぐらいしかいないわけだが。


「あの、テオさん? そんなにプリンが食べたいなら、また用意しようか?」


「い、いいのか? 甘味はこの町でも貴重なんだろ……?」


「いえ、テオさんたちには助けられましたし、プリンぐらいでいいならいくらでもご用意しますよ。よければ、そちらのフィーコさんの分も」


『マジかしら!?』


「お、お前ら、いいやつだな……名前は忘れたけど」


『そうね、人間にしては見上げた心意気だわ……名前は忘れたけど』


「……ハリーだよ」「……マリーです」


 しょぼんと肩を落とす兄妹。


「それで、プリンの代わりというのもなんだけど、これから少し付き合ってもらってもいいかな」


「べつにいいが……なにをすればいいんだ?」


「セイレーンの城について来てもらいたいんだ」


「城?」


 町の中央にそびえ立つ城を見る。

 そこはつい昨日まで、セイレーンやハーピィの拠点だった城だ。


「まだ城には囚われてる人もいるかもしれないし、食料や使えそうなものがあればもらっていきたいと思ってね」


「でも……もしかしたら、まだ魔物の残党がいるかもしれませんので」


「なるほど」


 まあ、残党がいるにしても、この町のトップであったセイレーンが倒されたのだ。

 今頃は逃げていると思うが……どちらかというと、俺なしで城に入るのが怖いのかもしれない。

 魔物の拠点であった城への恐怖感は、本能レベルですり込まれているはずだ。


「まあ、それぐらいならいいぞ。俺もあの城は調べたいと思ってたしな」


『そうね。略奪しないなんて城に失礼だわ』


「本当ですか!」「よかった……」


 ちょうど、そろそろ旅に出るための補給をしたいところだったしな。

 昨日のセイレーンとの戦いで、さっそく新品の剣を全部ダメにしたわけだし。

 そんなこんなで、俺たちはセイレーンの城へと略奪に向かうことにしたのだった。


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