33話 セイレーン戦後
お待たせしてしまい申し訳ありません……。
なんとかかんとか、ストックがたまってきたので連載再開します。
仲間ができたり強武器を手に入れたりと、ここから盛り上がっていくので、またお付き合いいただければなと思います。
むしろ、この物語で本来やりたかったことは、この先にほとんどつまってるんですよね……。
セイレーン戦まではまだチュートリアルという感覚だったので。
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アクションシーンに長けた漫画家様に担当していただいたので、めちゃくちゃクオリティが高いです。
【前回までのあらすじ】
人間が“最弱種族”として魔物に虐げられている未来に転生したテオ。
彼はレベルアップをして魔物たちの支配から脱したあと、不死鳥のフィーコ(誇り高くて美しい)を仲間にし、なんやかんやでセイレーンを倒して人間の町を解放する。
セイレーンを倒した翌日。
俺は町中にある屋台前で、“甘きもの”――プリンに舌鼓を打っていた。
これは『“歌鳥”に選ばれた妹を助けてほしい』という依頼の報酬だ。
今度こそまともに食べることができた甘味に、思わず涙ぐむ。
「ようやく、食べることができた……」
『な、泣いてる……』
フィーコにドン引きしたような顔をされるが、どうでもいい。
『それにしても、平和すぎてつまらないわ』
「平和、か……たしかにな」
周囲を見ると、町はどこもかしこもお祭り騒ぎ。
あちらこちらから平和な喧騒が聞こえてくる。これまで抑圧されていた分、たがが外れているのかもしれない。
まるで世界が平和になったかのような光景だが……。
おそらく、この世界でこんな自由で平和な人間を見ることができるのは、ここだけだろう。
「……昔はどこも、こんな感じだったんだけどな」
『ん、なにか言ったかしら?』
「いや、なんでもない」
思い出すのは、俺が生まれるより前――前世の記憶だ。
史上最強の冒険者テオ・ロードとして名を馳せていた時代。
そのときは人間と魔物は、良くも悪くも対等だった。
対等に、平等に、健全に――殺し合っていた。
世界は平和ではなかったが、今ほど悪くはなかったと思う。
つい懐古に浸りたくなるのも仕方ないだろう。
『まったく、家畜ごときが笑ってるのは気に入らないわね……そうだわ、この街にいる家畜たちを使ってデスゲームを開催するのはどうかしら? あの希望に満ちた笑顔を歪ませながら、身内同士で殺し合わせるなんて……ふふふ、とても面白いと思わない?』
「それよりプリン食べるか?」
『――食べるぅ!!』
誇り高き不死鳥、単純だった。
俺の体の中にすぽんっと憑依したフィーコが、俺の体を勝手に動かしてプリンを食べる。
『びゃあぁ~、うまぴゃあぁあ~……!』
「俺の口からキモい声出すな」
『ふんっ、まあまあの味ね。及第点をあげてもいいわ』
「まあまあの味のリアクションじゃなかっただろ」
『……で、わたしにプリンをくれるなんて、どういう風の吹き回しかしら?』
「いや、昨日の依頼は、一応協力して達成したわけだしな。たとえお前の活躍がゼロに等しくても、報酬の分配はきっちりしようとしただけだ」
『へぇ……?』
「あくまで、もう1口だけだからな。取り分としては、それぐらいの比率だろ」
『あと1口、ね……それじゃあ、遠慮なくいただくわ』
フィーコが意味深に笑うと、プリンの皿を頭上に高々と掲げた。
「……は? お前、なにを……」
『ねぇ、ところで……いいことを教えてあげるわ。プリンは――飲み物よ』
「……っ! お、お前、まさかッ!」
その言葉で、次の行動に嫌でも予想がついてしまった。
「や、やめろッ!」
プリンの皿が傾けられ――そのまま口の中に流し込まれる。
慌てて体の中に戻ったが、時すでに遅し。
「あ、ああ……あぁああ――ッ!?」
プリンはもはや喉の奥へとすべり落ちた後だった。
ごくん、と自分の喉が上下するのを、俺は黙って感じていることしかできない。
「な、なぜだ! なぜ、こんな残酷なことができるんだ……!」
『なぜ? ふふふ……なぜ、と言ったのかしら? 愚問ね、そんなのは決まってるでしょう?』
「な、なに?」
『あなたの絶望に歪んだ顔を見ながら食べるプリンが格別だからよ!』
「そ、そんな理由で、こんなことを……ッ!」
『もしかして、あなた……これまでの冒険を通して、わたしに仲間意識でも芽生えちゃったのかしら? わたしを信頼しちゃったのかしら? ふふふ、甘いわ……このプリンよりも甘い。わたしとあなたは、あくまでも食うか食われるかの関係。そんな敵にプリンを与えればこうなるのは……当然のことでしょう?』
「く、くそっ……くそぉおお――ッ!」
『ふふふ……! そうよ、もっとわたしを憎みなさい! わたしにプリンを与えたことを悔やみなさい! この屈辱の記憶を未来永劫、頭に刻み込むがいいわ! ふふふ……あ――ッははははッ!』
「え、えっと……」「あ、あいかわらず仲がいいんですね」
と、近くから声をかけられた。
顔を上げると、そこにいたのは――。
「ん? あ、ああ……お前らか」
昨日、セイレーンから助けた兄妹だ。名前は忘れた。
まあ、見るからに魔物であるフィーコがいるせいで、俺たちに話しかけてくるのはこの兄妹ぐらいしかいないわけだが。
「あの、テオさん? そんなにプリンが食べたいなら、また用意しようか?」
「い、いいのか? 甘味はこの町でも貴重なんだろ……?」
「いえ、テオさんたちには助けられましたし、プリンぐらいでいいならいくらでもご用意しますよ。よければ、そちらのフィーコさんの分も」
『マジかしら!?』
「お、お前ら、いいやつだな……名前は忘れたけど」
『そうね、人間にしては見上げた心意気だわ……名前は忘れたけど』
「……ハリーだよ」「……マリーです」
しょぼんと肩を落とす兄妹。
「それで、プリンの代わりというのもなんだけど、これから少し付き合ってもらってもいいかな」
「べつにいいが……なにをすればいいんだ?」
「セイレーンの城について来てもらいたいんだ」
「城?」
町の中央にそびえ立つ城を見る。
そこはつい昨日まで、セイレーンやハーピィの拠点だった城だ。
「まだ城には囚われてる人もいるかもしれないし、食料や使えそうなものがあればもらっていきたいと思ってね」
「でも……もしかしたら、まだ魔物の残党がいるかもしれませんので」
「なるほど」
まあ、残党がいるにしても、この町のトップであったセイレーンが倒されたのだ。
今頃は逃げていると思うが……どちらかというと、俺なしで城に入るのが怖いのかもしれない。
魔物の拠点であった城への恐怖感は、本能レベルですり込まれているはずだ。
「まあ、それぐらいならいいぞ。俺もあの城は調べたいと思ってたしな」
『そうね。略奪しないなんて城に失礼だわ』
「本当ですか!」「よかった……」
ちょうど、そろそろ旅に出るための補給をしたいところだったしな。
昨日のセイレーンとの戦いで、さっそく新品の剣を全部ダメにしたわけだし。
そんなこんなで、俺たちはセイレーンの城へと略奪に向かうことにしたのだった。
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