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この世界で俺だけが【レベルアップ】を知っている(Web版)  作者: 坂木持丸
第6章 歌鳥の儀

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29話 乱入者


 セイレーンは困惑していた。

 “歌鳥の儀”に、謎の人間が乱入してきたからだ。


 背後に下級霊を引きつれた、みすぼらしい格好の人間。

 その人間に今――ハーピィが殺された。

 あまりにもあっさりと、一方的に……。


「…………バカな」


 人間が魔物を殺せるはずがない。

 ハーピィもあれでレベル13の魔物だ。

 レベル1の人間では、剣を持ったところで肌に傷をつけることすら叶わないはずだ。だからこそ、セイレーンは“歌鳥”にする予定の人間に、剣を差し出したのだから。


(……人間ではない?)


 下級霊をつれているあたり、人型のアンデッドの類とも考えられる。

 しかし、それだと人間を守るような言動に説明がつかない。

 そしてなにより、その人間のレベル刻印はしっかりと手の甲で輝いている。


「……まぁ、よい」


 難しく考える必要はない。

 耳ざわりな雑音は――消すまでだ。


「ハーピィども――“乱入者を殺しなさい”」


 命令を下す。

 その一声で、呆然としていたハーピィたちが、びくんっとバネ仕掛けのように動きだした。

 セイレーンの天恵ギフト――【絶対王声ゼッタイオウセイ】による命令力。

 それに抗うことは、人間だろうと魔物だろうとできはしない。


「死ねェッ! 人間がァッ!」


 ハーピィたちが一斉に竜巻を起こして人間に襲いかかる。

 その無数の竜巻はひとつに合流し、闘技場を吹き飛ばさんばかりの巨大な竜巻に変貌する。

 そんな竜巻を前に、最弱種族にんげんはなすすべもなく切り刻まれるはず――だった。



「――風王剣(フゥゼ・ハルテ)



 人間が竜巻に向けて、手にした剣を素早く振った。

 ひゅん――ッ! と剣から幾重もの刃状の衝撃波が放たれる。


「……なっ!?」


 思わず、セイレーンが目を疑う。

 飛来した剣撃が竜巻を斬り裂き、そのままハーピィたちをまとめて両断する。

 さらにその剣撃は、セイレーンにも迫り――。


「…………ちぃっ」


 セイレーンは手にした王笏で、剣撃を振り払った。

 しかし、守ることができたのは自分の身だけだ。


 その剣撃は、セイレーン以外の全てをなぎ払う。

 貴賓席はめちゃくちゃに吹き飛ばされ、周囲にあった“歌鳥”たちの鳥かごもまとめて破壊されてしまう。

 せっかくの美しい悲鳴うたが――止まってしまう。


「…………お前は、何者?」


 人間か? 魔物か?

 その力は、とても人間とは思えない。


 しかし……魔物ならば知っているはずだ。

 セイレーンに剣を向けるということは、セイレーンに歯向かうという意味だけに留まらないことを。


 それは、この都市の管理をセイレーンに任せている“王”への反逆。

 つまりは――世界への反逆だ。


「お前、まさか……“王”に歯向かうつもり?」


 その人間は、なにも答えない。

 セイレーンが戸惑っていると、そこに1匹のハーピィが息せき切って飛び込んできた。


「セイレーン様! 申し訳ありません!」


「……なにかしら、騒々しい」


「ま、町にいるハーピィたちが全滅しました!」


「なんですって……?」


 一瞬、耳を疑った。


「あ、あの人間です! あの人間がハーピィたちを殺しました!」


「…………そう」


 セイレーンは微笑む。

 その笑みは、しかし……残酷なほどに歪んだものだった。



「――“堕ちろ”」



 その一言で、ハーピィは地面に落下する。


「ぐっ! せ、セイレーン様、申し訳ありま……」


「――“黙れ”」


「……ッ!」


 セイレーンの声が低くなる。

 美しく魅惑的な声から、地獄の底から這い出てきた亡霊のような声へと変貌する。その声は、聞いている者の心臓を凍らせかねないほどに冷酷なものだった。


「……魔物が最弱種族にんげんに殺された? よくも、わらわにそんな雑音を聞かせてくれたわね。お前も……“歌鳥”になりたいのかしら?」


「……ッ! ……ッ!」


 ハーピィが目を見開いて、必死に首を横に振る。

 しかし、セイレーンの命令うたは始まってしまった。



「――“苦しめ”、“泣け”、“わめけ”、“叫べ”、“もがけ”、“のたうちまわれ”、“悲しめ”、“嘆け”、“悔いよ”、“飢えよ”、“渇け”……」



 その命令のつらなりは、美しい歌のような旋律を帯びる。

 その歌に合わせて踊るように、ハーピィがもがき苦しみ、絶叫し、身をくねらせてのたうち回る――。


 やがて、歌声は止まり……。

 最後にひとつ、終止符の代わりというように。

 セイレーンは、1つの命令を下した。



「――――“生きよ”」



 これで、“歌鳥”の完成だ。

 ハーピィはもはや悲鳴を上げるだけの肉塊となりはてる。

 耳がとろけてしまいそうな甘美な悲鳴。

 しかし、それでも。


「いまいちね……やっぱり、人間の悲鳴ほど美しい音楽はないと思わない?」


 セイレーンは眼下にいる人間へと向き直る。

 人間は鼻を鳴らして答えた。


「さぁ、なにを言ってるかわからないな」


「うふふ……反抗的ね。お前、とてもよいわ。これほどの逸材は初めてよ」


 反抗された苛立ちよりも――ぞくぞくが止まらない。

 この人間に“歌鳥”たちを壊されてしまったが……。

 ちょうどただの悲鳴には飽きていたところだ。


 この人間を手に入れたい。この人間の悲鳴を聞きたい。

 この人間を“歌鳥”にできれば……他はなにもいらない。



「あぁ……お前はいったい、どんな悲鳴を奏でてくれるのかしら?」




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