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2話 レベルアップ


「――――()()()()()()()()()()




 オーガの首筋に向かって、逆手に握ったナイフを突き立てた。さらに掌底を放つようにナイフの柄頭に左手を押し当て、ずず……とオーガの首にさらに刃をめり込ませる。

 そのまま落下の勢いを乗せて、首筋から喉元まで一気に切り裂いた。


「……ァ……ぇ……?」


 呆けたようなオーガの声。

 なにが起きたのか、まだ理解できていないのだろう。

 それから一瞬遅れて、びゅぅうぅ――ッ! と血が噴水のように弧を描いた。


「……あ……ァ、エ……?」


 オーガは首元を押さえながら、なにか声を上げようとしたらしい。しかし、ぱっくり割れた喉からは、こひゅっ……と空気の漏れる音しか出てこなかった。


 そのまま――ずしんっ! と。

 オーガは自らの血溜まりに倒れ伏す。




 ――――討伐完了だ。




「…………ふぅ」


 そこで、俺はようやく一息ついた。

 ()()()()()の実戦だったが、なんとかうまくやれたようだ。

 魔物や人間たちに隠れてこそこそ鍛錬はしてきたが、やはりレベル1だと思うように体が動かない。このたった数秒間で魔力も底を尽きてしまい、目眩でふらふらする。


(これじゃあ、たしかに……()()()人間じゃ、魔物に勝てないだろうな)


 レベル10のオーガと、レベル1の人間とでは、身体能力に大きな開きがある。その差は10倍をも超えるだろう。

 それに加えて、人間は魔物の管理下にあるのだ。

 どこにいっても魔物の目があるから下手に動けないし、魔法の知識どころか武器となるものも手に入らない。


 まともな刃物を手に入れるのも、このオーガの調理場に入り込むぐらいしか方法がなかった。

 その刃物にしても“物質強化(ミ・ベルク)”の魔法で強靭化しなければ、オーガの肌に傷をつけることすらできなかっただろう。しかもレベル1では、燃費のいい強化魔法ですら10秒ともたずに魔力切れを起こすときた。


(……人間が魔物に勝てないように徹底的に管理してる、といったところか)


 思わず、溜息が出る。

 このせいで、たかがオーガを1匹倒すまでに時間がかかってしまった。


 この町の外がどうなってるかはわからないが……。

 オーガたちの人間をバカにしたような口ぶりから、だいたい察しはつく。

 おそらくは他の町も同じような環境に置かれていて、この世界の誰も魔物を倒すことはできないのだろう。

 いや、そもそも……魔物に抵抗しようと思っている人間すらいないのかもしれない。


(……()()なのは、俺だけなんだろうな)


 俺という存在は、魔物たちにとって()()()であるはずだ。

 なぜなら、俺は……生まれたときから、魔法の使い方を知っていた。あらゆる武術を知っていた。魔物の弱点を知っていた。

 そして――人が魔物を倒せる、ということを知っていた。


 そう、俺には……前世の記憶があったのだ。



 ――冒険王テオ・ロード。



 それが、前世の俺の呼び名だった。

 史上最強とうたわれた人間にして、世界唯一のSランク冒険者。


 俺に冒険できない地なんてなかった。

 俺が勝てない魔物なんていなかった。


 草原を、山を、森を、地底を、海を、空を……。

 世界のありとあらゆる場所を、俺は自由に冒険し尽くした。

 どんなに強大な魔物が現れても――俺はその全てを倒し続けた。



(……こんな話しても、誰も信じてくれないだろうけどな)


 俺自身でさえも、この世界で魔法が使えなかったら、妄想だと疑っていたかもしれない。

 それぐらい今の時代の人間からしたら、非常識な記憶だった。


 そもそも、なぜ転生したのかは不明だ。『力強い魂は、輪廻転生しても形を保つことがある』といった話は、前世でモリガナという知り合いの錬金術師から聞いたことがあるが……ここまではっきりと記憶が残っている例は聞いたことがない。


 それに、俺がどうして死んだのかも思い出せない。

 死ぬ間際、誰かと大切な約束をした気がする。

 しかし、その約束すらも……忘れてしまった。


(それでも、前世の記憶があったのは助かったな)


 前世で習得した武術や魔法の知識がまるまる残っていなければ、レベル1のままオーガを倒すことはできなかっただろう。

 そもそも、魔物に抗おうという考えすらわかなかったはずだ。


 ――人は、魔物には勝てない。


 この世界の誰もが口をそろえて、そう言った。

 しかし、俺だけは知っている。


 ――人は、魔物に勝つことができるのだと。


 いや、それどころか……。

 人間こそが、いずれ最強に至ることができる種族なのだ。

 なぜなら、人間には最弱にして最強の天恵ギフトがあるのだから。



(お……来たか)



 オーガの肩のレベル刻印から光が浮き上がり、すぅぅ……と俺の手の甲のレベル刻印へと吸い込まれていく。

 その瞬間――。


「……っ!」


 びり――ッ! と、全身に電流が走った。

 体中の血管に、直接エネルギーを流し込まれるような感覚。


 それと同時に……かちり、と。

 その手の甲に刻まれた紋章の模様が変化する。


(……レベル5、か)


 レベル――それは種族ごとに定められた命の格。

 その数字は生まれたときから変わることはない。

 それがこの世界のルールだ。


 しかし、人間だけは違う。

 そのルールを破壊する、唯一無二の天恵ギフトが与えられている。

 それこそが――。



 ――【レベルアップ】



 魔物の命を喰らい、自らの命の格(レベル)を上げる天恵ギフト

 人間は生まれたときこそ世界最弱(レベル1)だが、魔物を倒すことができればどこまでも強くなることができる。


 ゆえに、人間は――最弱にして最強。


 とはいえ、人が魔物に勝てなくなったこの時代では、人間が【レベルアップ】できることも忘れ去られてしまったようだが……。


 まぁ、今はそんなことを考えていても仕方ない。

 それよりも……。


(……始めるか)


 オーガを殺した時点で、もう後戻りはできない。

 すぐに他のオーガたちも、このオーガの殺害に気づくだろう。


 感慨に浸っている時間はない。急いでこの町から脱出する必要がある。

 だが、その前に――。



 ――この町にいるオーガを、全てこの手で討伐しよう。





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