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16話 城攻め


「――襲撃開始だ」


 俺は地面を勢いよく蹴って、城門をくぐり抜けた。

 両手に剣をかまえながら、全速力で城砦の中庭を駆け抜ける。


 さっそく音や匂いを察知したらしく、蟻の巣をつついたようにコボルトたちがわらわらと出てきたが……まったく臨戦態勢が取れていない。

 武器だけは持ってきたようだが、防具をつけていないものがほとんどだ。いつもは活動していない昼間だからということもあるのだろう。


「城砦のわりには、ずいぶんと無防備だな」


『……ま、城砦といっても、誰かが攻めてくるはずないものね。そんなことすれば、“王”に反逆することにもなるし。それもまさか、家畜にんげんが単騎で襲撃してくるなんて……誰も考えてないわよ』


「そんなものか」


 とはいえ、さすが統率力に優れたコボルトといったところか。

 しばらく進んだところで、突然――。


 かかかかか――ッ! と。

 俺に向かって矢が降り注いできた。


 とっさに矢を斬り捨てながら周囲を見まわすと、道の先に弓をかまえたコボルトたちの一団が待ちかまえていた。

 いや、正面だけではない。背後にも、側面にも、建物の屋根の上にも……どこからわいてきたのか、そこら中にコボルトの弓兵がいる。


 弓兵の数が多いだけあり、矢の雨は降り止まない。

 おそらくコボルトたちが放ってきているのは毒矢だろう。

 コボルトは力の弱さをカバーするために、毒性のある金属を武器に塗っていることが多い。できれば食らいたくはないものだ。


「……数の暴力か」


 念のため確認するが、出てきた魔物はコボルトだけ。

 レベル5のザコが数をそろえたところで、レベル53の差はくつがえらない。

 俺は走る勢いそのままに、地面の土を蹴り上げた。


「――風操(フゥゼ)


 風属性の初級魔法を唱える。

 渦状の風を巻き起こし、飛んできた矢を吹き散らすとともに、土埃をコボルトたちに浴びせかけた。

 ぎゃんぎゃん――ッ! と吠えるコボルトの群れ。

 その隙に……。


「――風王剣(フゥゼ・ハルテ)


 風属性の上級付与魔法を発動。

 剣から放たれた真空波が、正面のコボルトを数匹まとめて斬り捨てる。


 コボルトのような犬系や狼系の魔物は、敵を包囲するときに権力順で並ぶ習性がある。獲物の正面にいるものほど権力が高く、獲物の背後にいるものほど権力が弱い。

 つまり、正面にいるコボルトをまとめて潰せば、指示を出せるリーダー格がいなくなり、群れの統率はあっさり瓦解する。


 混乱しているコボルトたちを尻目に、俺はさらに先に進む。

 これだけの数のコボルトを相手にしている暇はない。

 ザコを蹴散らすのはあとでいい。


 俺の目当てはあくまで、このコボルトたちの首領――人狼だ。

 人狼はずる賢い魔物で、不利を悟るとすぐに逃げるからな。


 だからこそ……逃げる時間を与えない。

 人狼のもとまで一直線に向かい、短期決戦で仕留めてみせる。


「――魔力色覚ライラ


 左目に手を当てて、光属性の付与魔法を発動する。

 視界内の魔力反応を色で識別することができるようになる魔法だ。

 長時間使うと魔力を消耗するが、だいたい人狼の居場所には目星がついていた。


 コボルトは地下などの真っ暗な環境を好むのに対して、人狼は月光を浴びることを好む。

 となれば、採光用の窓がある部屋は、人狼専用と見ることができる。

 それと、夜行性の人狼が昼間から活発に動き回ってるとも思えないし、この時間帯は屋内にいるとすれば……。


「……やっぱり、城の最上階か」


『見つけたの?』


「まぁ、予想通りの場所にいてくれてよかった」


 城の最上階にある部屋の中に、ひときわ大きな魔力反応が視えた。

 コボルトの反応とはあきらかに違う。

 人狼のもので間違いないだろう。


「敵の居場所がわかれば、あとは楽だな」


『……? 城の入り口はあっちよ?』


「いや、入り口ならあるだろ? あんなちょうどいいところに――窓がな」


 俺は“粘着(ディーバ)”の魔法を唱えて、足裏に粘着力を付与した。

 そのまま、城の壁を足で蹴り――駆け上がる。


 わざわざ敵のいる建物の中に入ってやる義理はない。

 錆びた鉄格子がかかった、人狼の部屋の窓。

 そこに向かって、俺は両手の剣を思いっきり振りかぶった。


「――物質強化(ミ・ベルク)!」


 剣を強靭化させると同時に、窓を鉄格子ごと十字に斬り裂く。

 けたたましい音ともに壁やガラスが砕け散り、辺りに瓦礫が飛散する。


 壁にうがたれた穴から、俺は部屋の中へと飛び込んだ。

 床を転がりながら体勢を整えて、正面を見すえると――。


 ――そこに、いた。



「…………あァン? なんだァ……さっきから、うるせェな……」



 謁見の間を思わせる広間の奥に、人骨の山が築かれていた。

 その上にどっかりと腰かけているのは、銀色の毛並みをした二足歩行の狼だ。

 その手には、串焼き肉かなにかのように――人間の腕が握られている。血のしたたる新鮮な人肉を、骨ごとばりばり食べている。

 その額には、“46”を示すレベル刻印。



 ――人狼ワーウルフ



 まさにこいつこそが、この城の主だった。



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