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九、"まじっく"とはなんぞや

 急に言われた"魔法(マジック)"と言う言葉が何なのか分からなくて千律は首を傾げた。


「ん?守ル魔法、違いますカ?『でも守護のオーラが凄い満ちてるんだよなぁ…。だから護りの結界が張ってあるのかと思って、一緒に入れて貰おうと思って此処にきちゃったんだよなぁ…うーん??』」


 言ってる事がさっぱり分からない。

 とりあえず。


「その、まじっく?とは?」

「え?『あー"魔法"が通じてないのか…えっと』(サークル)やコトバで自然の力、借りマス。火を起こしたり、水を呼ぶ出来マス」

「さぁくる…?」

『魔法陣は、えーと』


 エディは木の枝を使って土の上に円を描き、中にヘキサグラムを描く。


「ホントはもっと複雑デス。こう絵にコトバ重ねて…『くっ…難しい…もっと真面目に勉強しておけば良かった…』」


 千律は土に描かれた図形を見て顎に手を当てた。


「六芒星…と言葉で自然の力を借りる…ふむ。まじっくとは呪術のことか?」


 言った瞬間、顎に当てていた手をガシッと両手で握られ、焚火の向こう側にいたはずのエディの目が直ぐ側でキラキラ輝いていた。


「うゎ!そんなに早くずり歩きして足は大丈夫なの!?」


 怪我人とは思えない速度で詰め寄られて、若干引く。


「その"ジュジュジュジュ"?知りたいデス!教えてデス!」

「言えてないし、勢い怖い!!ちょっと落ち着いてくれないかな!?」


 ひとまず食事も終わったので、万が一を思い火を消す。木々が煙を散らしてくれると言っても全く昇らないわけではない。

 月明かりはあれど、火を消して直ぐは闇が深く感じた。


「呪術を教えてと言われても…大して知らないよ。何が知りたいの?」

「その"護り"は?護ル魔法、何?」

「護る魔法、ねぇ…」


 張り出した木の根に腰かけようと、脇差を鞘ごと抜いたところで思い当たった。


「そう言えばこの脇差、守り刀だった。お婆様から賜った護符が柄に仕込んであるとか言ってたような…」

「え、マッテ!オバーサマ?ゴフ?マモリガタナって?『あー、くそ!何で俺は筆記用具持ち歩いてないんだ!』一つズツ話してデス!」


 暗闇に目が慣れてくると、エディが身振り手振りでわたわたしているのがわかった。


「えっと…じゃあまずはお婆様ね、お婆様は私の母の母だよ。巫女なんだ。日翠(ひすい)の巫女」

「ミコ?ヒスイ?」

「えっと…巫女は神様に祈って声をきいたり、先祖の力を借りて守りを施したり、薬草を使って病を払ったりする人の事だよ。日翠は地名だね。北政(きたのせい)州にある一番大きな森の事だよ」

『神…祈り…薬草…シスターの事か?』


 エディはぶつぶつと呟き、一人納得して「ゴフは?」ときいてきた。


「護符は守りの陣や言葉を書いた紙片やお札を指す。財布に入れたり、小さい巾着袋に入れて持ち歩いたりする。家の柱や梁に貼って家守につかったりもするかな」


 出来るだけ伝わるように、なるべく簡単な言葉を選んでゆっくり話してみるが大丈夫だろうか?と思うも、エディは一人で納得しているようだった。


『護符はやはり守護結界で間違いなさそうだな。しかし…凄い強力だよな。術者の力が強いのか、術そのものが強いのか…興味深い』

 (これは…放っておいてもいいのかな?)


 そっと気配を小さくして、寝てしまおうかなと考えていると、察したのか「リツ寝てないデスカ?イル!?」と確認してきた。鋭い。


「ワキザシ、見てもいいデス?」

「え、あ、あぁ」

騎士(ナイト)の友ダチいル。とても大切、知ってマス。大事にするデス」


 躊躇ったが、エディが真剣なのは分かった。これで斬りかかられることも考えたが、逆を言えばエディはずっと斬りかかられるか警戒していた訳で。


 (少しの時間しか話してないが、彼は人を害するようには思えない)


 千律は脇差を手渡した。


「ありガトこざいマス!」


 エディは脇差を手に立てたり横にしたり裏に返したりと、舐めるように見て、柄と鞘を掴みそっとずらした。全てを抜かず、出た刃を少しだけ確認して直ぐに戻した。


『さっぱり術式がわからん。…持ち手が気配の中心なのは分かるが…"ツカ"とはこの柄の部分の事か。中はどうなってるんだ?』


 放って置くと分解されそうだ。


「も、もういいかな?」

「あ、あぁ。ありガトこざいマス」


 千律が手を出せばあっさり返してくれる。手元に戻るとほっとした。


「結界、詳しく知っテル人初めて会ったデス。もうチョットききたいデス」

「何でそんなに知りたいんだ?」


 千律の疑問にエディは訥々と語り始めた。


「ワタシの国、フェアラル。とても豊かデス。だカラ、いつも狙われてマス」


 どうやら話によると、フェアラルはとても資源や大地が豊かな国らしい。それ故に周辺国家から度々攻め入られた歴史があり、今に続いているようだ。

 また国防結界の国家予算も大きく、なんとか国護の改善をしたいというのもあるという。


「ワタシ、国で魔法の研究してルマス。特に防御の結界、一番。三国の防御結界が凄い、聞いて勉強来まシタ」

「成る程、話はわかった。だが何故東朝(ひがしのちょう)に来たのかが分からん」

「?」


 エディがきょとんと首を傾げる。


大蛇(おろち)島が四州から成るのは知っている?」


 北にある政州(せいしゅう)北政州(きたのせいしゅう)、西にある都州(みやしゅう)西都州(にしのみやしゅう)、南にある京州(きょうしゅう)南京州(みなみのきょうしゅう)。そして東にある朝州(ちょうしゅう)東朝州(ひがしのちょうしゅう)である。


「ハイ、知ってマス」

「結界の要も呪術師が一番多いのも西都だ。東朝は武の(くに)として知られていて武力は一番あるが、呪術師の多さに関しては四州最下位だよ」


 途端にエディの気配にゆらりと怒気が交じる。


「東朝がイイと…きいて…」


 それだけ絞り出して黙り込む。

 誰に言われたのかは知らないが、結果として情報の一つも仕入れられず怪我を負って山で行き倒れている。


 (どう優しく見積もっても、嵌められたな…)


 これで気づかない方がおかしい。

 エディは地面に拳を叩き付けると『あんのクソ爺…!』と悪態をついた。

 次いでぐらりと体が傾ぐ。


「エディ、傷に障る。休んだ方がいい…」

『そうだな…』


二人はそのまま静かに仮眠をとった。




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