李徴式薄皮パン
夢の島思念公園の歌詞が第二次大戦を忘れないための風刺、という考察をどこかで読んだ。
夢の島がゴミの島なのは確かにそうだが、夢の島を有する下町区域もまた戦火で焼かれたことがあるということを考えると、確かにともうなずける考察だった。
弱さを持つから癒しを求める、見たくないものに蓋をして、というのも夢の島思念公園が使われた作品でも考えさせられるテーマであった。
そしてみたくないものに蓋をし続けた結果、人はいつの間にかトラになるんだろう。
李徴のように。そしてトラはいつかトラの心しか持たなくなり、やがてトラ同士で争ってバターになるのだろう。
バターになって食われる運命。
でも、それは弱い事からでもなく、逃げる事からでもなく、目を背けた事にある。だから曲がった金属バットを持つトラが生まれたんだ。
誰だって勘違いしているけれど、弱い事は悪いことじゃない。
逃げる事も悪い事じゃない。
弱い自分に向き合ってそれも自分だって認識することが大事だし、逃げる事で初めて始末をつけられる事もある。全部が全部じゃないだろうけど。
だからトラにならない英気を養うために、甘いものでも食べてしまおう。
ヤマザキの薄皮パンシリーズ。
中身が多く入っていて、それでいて五個あるから小分けに食べられるのが好きだ。
トラにならない為にも、そしてトラになってバターにならない為にも、李徴式薄皮パンにしてしまおう。
薄皮パンの上の皮をそっと破り、中身が見えるようにする。
そしてその穴に、ひとつまみの、親指と人差し指でつかめる一つまみの、バターかマーガリンの欠片を落とす。
あとは、軽くオーブンで焼く。溶けたバターかマーガリンの香り。そして温まった薄皮の中身がまた良い香りをする。
おすすめはピーナッツだが、クリームでもおいしいし、チョコでも楽しめる。あんぱんもおいしい。
そもそもバターになってしまうのはちびくろサンボで山月記が関係ないというのは百も承知だが同じトラが出てくるつながり、だから李徴式薄皮パン。
これ以上言うならばチューバッカ弁論ではなくても、ピーターラビットを弁護するために法廷に行こうとした賢すぎるビーグル犬を呼ぶことになるだろう。
彼が書く小説はいつも書き出しが同じだというが、あの書き出しそのものは続きを読みたくなる書き出しだと思うのは気のせいじゃない。
ショートを守れるビーグル犬なんだから小説ぐらい書けるだろう。
だから回答に困ったらビーグル犬を弁護人に指名するピーターラビットの弁護人方式で良いのである。
いつもホーマー・シンプソンの名前を忘れる発電所の所長のようなものだ。ホーマー・シンプソンの勤務歴が何年かは知らないけれど。
少なくともあのビーグル犬やホーマーはトラになる心配はないだろう。
自分はトラになりたくない、バターになりたくないし。
そのために、自分の中のトラの因子と向き合うんだ。
時に逃げる事も考えたりするけど。
李徴式薄皮ピーナッツパン、3個は口が甘すぎるけれど。
それぐらいで良い事にしておく。たぶんビーグル犬も「たべたかったからたべた」で終わらせる。