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エピローグ

 次の日、僕はいつもより少し早めに家を出た。特に深い理由があるとか、そういうわけではない。ただなんとなく、相澤に昨日のことを話してみたいと思っただけだ。

 でも、僕は学校があるA町につくどころか、駅に入ることすらできなかった。


 駅の入り口にはパトカーが数台止まっていて、その周囲に黄色と黒のテープが張られている。近くに住んでいる人たちが十数人、そのテープの手前で駅の中を見ながらああだこうだと話していた。

 近くにいたおじさんに話を聞いてみると、どうやら見つかっていなかった事故の被害者の女の人の遺体が、線路の上に横たわっているのが見つかったとのことだ。


 僕はそれを聞いて、すぐに家に戻った。なんとなく、駅の近くにいるのが嫌だった。

 この日は結局お母さんが車で学校の近くまで送ってくれることになった。昨日窓の外を流れる景色を見ながら、昨日お母さんに八つ当たりみたいな態度をとってしまったことを思い出して恥ずかしくなった。


     *


「なあおい聞いたか!? 女の人の死体が見つかったんだと!」

「し、知ってるけどさ……」


 早朝の教室。クラスメイトが四分の一も集まっていない教室で、なんの前触れもなく相澤がそう話しかけてきた。

 近くのクラスメイトたちの視線が一斉にこちらに集まる。僕は相澤に「そんなこと大声で言うなよ」と怒りながら、教室の隅、ベランダに続くガラス戸のところに引っ張っていく。


「……それで、さ。そのことなんだけど」

「ん? なんかあったのか? そういやあの駅、お前がいっつも使ってるところ——」

「本当に、地縛霊かもしれない」

「—、……はぁ?」


 僕が言うと、相澤は素っ頓狂な声をあげた。なんだか妙なものを見るような視線を向けてくる。


「いやお前、いきなり何言い出すの?」

「……いや、ごめん。なんでもない」

「…………? そ、そうか」


 相澤は納得したようなしていないような微妙な表情で、僕を見てうなずいた。なんだか少し気まずくて、少しの間お互いに黙り込む。

 そして、何か話すことはないかなと考え始めた時、相澤がふと思い出したように言った。


「あっ、そうだ。そういやさ、昨日の夜2ちゃん見てたら書いてあったんだけどさ、あの駅数十年前に女の子が一人突き落とされたことがあったらしいぜ」

「……えっ?」


 息が詰まる。僕が昨晩見たものが脳裏に鮮明に蘇って、鳥肌が立った。

 相澤は少し気分が良さそうに、知識自慢のように語り続ける。

 

「その女の子さ、金持ちの家の子だったらしいんだけど、小さい頃から霊感が強くて気味悪がられてたって話なんだわ。で、駅で電車を待ってた時にまた変なことを言い出して、それで我慢できなくなった母親が線路の上に突き落としたんだと」

「…………」

「面白いのはこっからだ。その女の子が死んでから、その駅ではその子の声で『許さない』とか『みんな殺してやる』とかぶつぶつ言ってるのが聞こえるって言う人がいたんだと。その子の両親も常日頃からずっと奇妙な現象や病気に悩まされて、十年もしたら完全に落ちぶれて貧乏になっちまったらしいんだ」

「……」

「どうだ? なかなかおもしれーだろ? …………おい、どうした?」


 相澤に声をかけられて、慌てて「あ、ああうん、す、すごいね……」と返したけど、すごくぎこちないなと自分でも感じるほど、僕の体は強張っていた。

 相澤は僕のことを心配して、保健室に行くかと聞いてきたけど、断った。

 昨日の夜、最初に見た女の子の少し悲しげな顔が頭に張り付いて離れなかった。


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