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すれ違い勘違い

 お母さんが抱っこした赤ちゃんにキスをしようとするみたいに顔を近づけて、今まで聞いたことのない低くてあたたかい優しい声で、

「何かあったん、舞夏ちゃん……?」

と聞いてくれる。

 アタシは、押し返してくる優乃ちゃんの胸の弾力に「うおっ!?こ、これがGか!?Gのちからかァァ!!」と内心、覚醒した主人公の必殺技にヤられるラスボスみたいにGカップのパワーに驚きながら、優乃ちゃんがお姉ちゃんなことを思い出す。


 優乃ちゃんがかわいいからアタシは妹に任命してたけど、リアルでは優乃ちゃんには弟がいてお姉ちゃんなのだ。

 それも、弟をうっとうしー家来みたいに考えてる女のコたちとは違って、おとうと大好きなお姉ちゃんらしい。

 優乃ちゃんと同じ中学だった男子から、小学生の頃は弟を泣かせた上級生の家に文句を言いに行ったこともある、という話を聞いたのも思い出した。


 これがリアル姉かぁ。

 アタシのごっこなんかじゃ全然ぜんぜん比べられないなぁ……

 スゴいっ。

 どんどん甘えたくなっちゃうなぁ……。


 だから、つい「大河がな……」と言いかけてしまう。

 言いかけてしまってあわててめる。

 アタシが勝手にショックを受けただけで、大河は何も悪くない。

 それに大河の部屋にエッチなDVDがある話を、勝手に優乃ちゃんに話してしまうのも大河に悪いし。

「西畑先輩? 西畑先輩に何か言われたん……?」

 違う。

 違うけど、アタシは優乃ちゃんにもう少し甘えたくて、否定も肯定もせずに優乃ちゃんを見つめ返した。

 涙目で。


 優乃ちゃんはガバッと、もう一度アタシを抱き寄せて、アタシの頭と背中をポンポンしながら、

「ちゃんと知ってる?

 舞夏ちゃんはスっゴくかわいいんよ?

 もう最高。

  もし誰かが舞夏ちゃんにヒドいことを言うんやったら、それは、その人が悪いんよ」

 アタシも、自分で自分のことを「それなりにイケてるんとちゃうかな~」と思って生きてきていたけど、ここまで大切に強く肯定をしてもらえたことはなくて、今度はちよっと感動で泣きそう。

 泣きそうだけど、そろそろ大河のぎぬを晴らしてやらないといけない。


 さて、どう話せばいいのかなぁ、と思いながら顔を上げて口を開いた。



 優乃ちゃんは、いなかった。



 アタシはええええぇぇ!!!!と驚いてひらいた口は、そのままポカンといた。

 ビックリし過ぎて動けないアタシは、目だけで優乃ちゃんを探す。


 いた。

 教室の前側の入り口、そのまま出て左に曲がって消える。


 スパっ、タンタンタンタンタンタンタンタンッ!


 大きな音が廊下に響く。

 踏みしめるように廊下を走る音。


 アタシは、また、ええええぇぇッッ!!!!!と驚きながら、わけのわからない大きな不安に包まれる。

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