マジですか優乃さん
「アタシな、Gになってん……」
「だから……痔になったんやろ?
もう、お薬も、もろーたんやんな?
大丈夫、すぐ治る、すぐ治るよ」
「舞夏ちゃん、何を言ってるか、わかんないよ。
発音もおかしいし。
あのね、アタシな……」
発音がおかしいと言われて、「あれ?“ち”に“テンテン”じゃなかったっけ?“し”に“テンテン”やった? アタシって、滑舌悪いんかなぁ」とプチパニックになっているアタシに、優乃ちゃんは静かに決着をつけた。
「舞夏ちゃん、アタシ、Gカップになったんよ…………」
「昨日なぁ、ショップのおねえさんに計り直してもらったらなぁ……」という優乃ちゃんの声を遠く聞きながら、アタシは星空を見上げながら背中から谷底に落ちていくみたいに、頭の後ろからサァ───ッと冷たい風が吹くのを感じる。
優乃ちゃん、アタシの妹優乃ちゃん、何を言ってるの?
それって、大きい胸の名前なんちゃうの?
ブラというものが、アタシが女のコであるというアイデンティティーの確認のため“だけ”の道具でしかないアタシは、異次元な話題に混乱する。
「Gぃ……Gって、何やったっけ?
ご機嫌のG?」
「え?
アハッ、アハハ、
舞夏ちゃん、おかしーぃっ。
違うよ?ABCDのGだよ、アハハハハハ」
アタシは頭の中に右手のイメージを作って、A、B、C……と指を折って数えてみる。
数えてDの辺りで「おいおいおいおい……」となって、Gで「うひょーッ!?」と、また冷たい風が頭を吹き上げる。
Gって、七文字目ですよ?優乃さん。
宇宙一の地上げ屋の、あのキャラクターでも最終形態は第五形態ですよ?優乃さん。
ダメ。
もうダメだ。
アタシなんて、もう、「さよなら、天さん」を読んだ時ぐらい泣きそうな気分だよ、優乃さん。
「へ、へぇ~、すごいですね、優乃さん」
「え?え?舞夏ちゃん?」
「や、やっぱり、肩とか凝ったりするんですか?」
「待って、舞夏ちゃん、何で敬語?」
「いや、だってボクなんかが優乃さんにタメ口なんて利けませんやーんッ!!」
「若手芸人みたいな敬語もやめて、舞夏ちゃんアハハハハ」
優乃さんは、ヤケクソなアタシのリアクションをギャグだと思ったみたいで、笑った後、小さな声で言った。
「ちょっと嬉しかったんやけどな、あんまり女のコ同士でも、そんな話できへんやん?
舞夏ちゃんやったら、西畑先輩がおるし、聞いてもらってもいいのかなぁって」
西畑先輩というのは、同じ高校に通う、一つ年上の幼馴染み、西畑大河のことだ。
アタシと大河は色々あって、みんな公認のカップルみたいになっている。