2つのこと
ニュース番組でアタシたちの名前は伏せられていたけど、地元ではバレバレ。
ちょっとした有名人になったし、今もそうだ。
そして、それは、2つのことをもたらしてる。
アタシたちは、周囲から公認のカップルのような扱いになり、それは何と言うか……“不可侵”だった。
アタシはともかく、大河なんて女のコにモテないタイプじゃあない。
背だって高いし、顔だって悪くないし、すンごく優しいし。
だけど、アタシにも大河にも恋のライバルが現れたことがない。
みんな、なんだか、ノリが「うんうん、どうぞお幸せに」って感じ。
まあ、アタシだって、大河と結婚するんだって、それが運命だって決めてたけど。
たぶん、アタシや大河を異性として意識してくれたコは、アクションを起こす前に、あの動画の存在を知ってネットで視るんだと思う。
で、きっと心が折れてしまうのだ。
「これは、もう、誰かが割り込んでいいものじゃない」
そう思わせるだけのものが、あの動画にはあるんたから。
そして、あの事件がもたらしたもう1つのものは、人知れず大量にいる、“大河リスペクト男子”の存在だった。
だいたいは、ヤンチャ系、オラオラ系の男の子やお兄さんたち。
そして、格闘技や武道を学んでいるらしい凛とした空気の男の子や先輩たちだった。
「西畑大河って、自分か?」
大河は、見知らぬ男の子にいきなり訊かれることが多い。
アタシが傍に居る時も、1人の時でも。
“自分”っていうのは、「君」とか「お前」っていうニュアンスで使われる関西独特の言い方だ。
アタシたちは、これを『大河確認』と呼んでいる。
そこからケンカを吹っ掛けられたりすることはない。
みんな、ただ、嬉しそうに目をキラキラとさせている。
動画の中の大河は、まだボールの投げ方さえちゃんと身につけてなさそうなぐらい、幼かった。
それなのに、立ち向かったのだ。
自分の倍も背が高い不審者に。
明らかに折られたとわかる足を引きずって。
明らかに折られたとわかる腕を垂らして。
助けが来るまでの最後の一瞬まで。
必死に男にしがみつき、アタシから遠ざけようと体を押しつけた。
その映像がホントのことで、その男の子が元気に大きく育っていることが、ちょっとした感動のようだった。
そして、考えてみれば、優乃ちゃんは“武道女子”だし、大河に対して、同じような気持ちを持っていたとしても、何もおかしくない。




