じゃあ、また後で
その時、アタシは聞き逃さなかった。
ふふおぉぉぉぉッ。
まるで声のような音を立てて口から息を吸う音。
アタシは、この音を知ってる。
大河と幼なじみのアタシだから知っている音。
大河の、息を吸う音。
それも、ただの呼吸じゃない。
むずかしいクイズやなぞなぞを出された時の大河が、「あ!なるほど!」と正解に気づいた時に出す音だ。
おい、大河。
それはどーゆー意味の「なるほど」なのか、ゆっくり聞かせてもらいたいなぁ、おい。
だって、言ってるアタシ自身が、「二岡先生、こんな説明じゃあ、きっとワケがわかんないよねぇ」って思ってるんだから。
実際、二岡先生は「な、なんやそれは……」と戸惑った声を出した。
おちょぼ口で。
目線も、アタシたちから逸らしている。
もう逃げ腰だ。
「とにかくー、なんや、アカンぞ、オマエら」
軽くて薄くて説得力も重みも無い声。
二岡先生は話を切り上げに入った。
「また、こーゆー騒ぎを起こしたら、次はちゃんと処分するからな」
なんとか、威厳を取り戻そうとしている。
と、いうことは、今回はこれで話は終わりってことだ。
「すいませんでした」
アタシたち3人は、合わせたワケでもないのに、バッチリ同じタイミングと角度で頭を下げた。
職員室を出る。
「舞夏ちゃん!!」
許可も無くバストのカップを公表された優乃ちゃんから、抗議の声が挙がる。
「ゴメン、優乃ちゃん。
あーゆー話から入った方が二岡先生が動揺して、あんまり怒られへんって思ってん」
「だからって……、もう!」
優乃ちゃんは気持ちが収まらないみたいだ。
大河は聞こえてないフリで遠くを見ている。
男ってヤツはッ。
アタシたちは、3人で階段を上る。
1年生のクラスは2階。
2年生は3階。
2階まで上がったところで、アタシたちは、大河と別れる。
アタシはいつも大河と家に帰るから、大河は
「じゃあ、また後でな」
とアタシに声を掛ける。
そして優乃ちゃんに、
「なんか、今日、舞夏ちゃんのことで、いろいろとゴメンな」と声を掛けた。
階段からアタシたちのクラスまでの廊下で、優乃ちゃんは
「よかったァ……」
と、ホッとしたような声を出した。
「西畑先輩が怒ってなくて……」
「大河は女のコに怒ったりせーへんよ」
アタシは笑う。




