男ってヤツは!
もちろん、生徒の間だけで使う、隠れたアダ名だ。
二岡先生は、割と怖い。
そんなアダ名、冗談でも、決して本人には言えない。
その怖い二岡先生が手招きしていて、アタシたちは先生の机の前に並んだ。
アタシ、優乃ちゃん、大河。
何でだろー?
アタシと大河は、なんとなく優乃ちゃんを挟むように立った。
「何の話かは、わかるよな?」
二岡先生は、顔の筋肉の力だけで、にこやかに言った。
目は笑っていない。
アタシの頭は、フル回転していた。
今朝の騒ぎには優乃ちゃんの強い姉性愛はあるけれど、それでも、そこに正当な理由があるかと問われれば、何の正義もない。
何を、どう説明しても、きっと激しく叱られるに違いない。
「なんで、あーゆーことになったんや?」
二岡先生は、笑顔や優しさとは違う感情を湛えた瞳で言った。
アタシは勝負に出た。
もしかしたら、今日以降、アタシの“姉”的なポジションに収まってしまいそうな優乃ちゃんへの、ささやかな仕返しの気持ちもあったのかも知れない。
アタシは言った。
「優乃ちゃんがGカップなんです」
「舞夏ちゃんッ!?」
驚いた優乃ちゃんの抗議の声と、二岡先生の「じ、G??」の声は同時だった。
そしてアタシは見逃さない。
二岡先生も大河も優乃ちゃんを見た。
その視線は、顔よりも少し低い位置へ傾いていた。
チッ!
男ってヤツは!
コレだから!
アタシは、アタシから見た男子の特徴みたいなものに賭けたのだ。
男子ってヤツは、エッチな話が好きだったりする。
それは女子が「もう!ヤメてや!」と抗議しても逆に嬉しそうに話を続けたりする。
それなのに男子は、男子って生き物は、女の子の口からちょっとエッチな話題が出ると、スゴく困ったような顔をする。
自分が話をする時は、あんなに嫌がっても話を続けるクセに、女子の口からエッチな話や生々しい話が出ると、助けを求めるような顔になって逃げ腰になるのだ。
男子は、そしてオトナの男の人も、女子の言うエッチな話に怯む。
アタシは、アタシから見たその法則に賭けた。
「そ……、それが何で、あんなことになったんや?」
二岡先生は、もう少しで口笛が吹けそうなぐらいのおちょぼ口になって言った。
声も少し頼りなく高くなって、いつもみたいな厚みが無かった。
ふふ。
効いてる効いてる。
「アタシがうらやましがったら、なんか勘違いを生んでしまって、優乃ちゃんがアタシの心配をしてくれて、あんなことになりました」




