こんなハズでは……
だけどアタシは知ってる。
大河にエッチなDVDを貸したのは、伊東先輩。
オマエだ。
オマエがすべての始まりなのだ。
アタシはズェっ────タイにオマエを許さない。
許さないからな。
だけど、今はありがたいからとりあえずスルー。
聴こえていないフリをして、謝りながら机と椅子を直し続ける。
そして全部を直し終わって、優乃ちゃんの手を引いて教室の入り口に立つ。
「申し訳ありませんでしたァ!」
アタシは優乃ちゃんに先んじて大きく謝罪した後、優乃ちゃんの手を強引に引いて廊下に出る。
「おう、舞夏ちゃァん!
またなぁ!」
伊東先輩の声と、悪意や侮蔑とは違う、柔らかい笑い声が起こる。
アタシは廊下を進みながら大河の教室をチラリとのぞいて、大河と目が合ったから「ゴメンな」を込めて、顔の真ん中に顔のパーツの全部を寄せた“申し訳ありませんフェイス”を大河に送って、自分のクラスへと向かう。
階段まで着いた辺りで、アタシは振り返った。
「ゴメンな、優乃ちゃん」
アタシはもう一度謝る。
アタシのせいだ。
アタシのせいなんだ。
だけど、優乃ちゃんはどこまでも優しかった。
笑いながら言った。
「ええんよ。
舞夏ちゃんが傷つけられたんじゃなくって良かった」
アタシは申し訳なくて、この世から消えてなくなりたい。
だけど、優乃ちゃんは、そのまま聞き捨てならない言葉を口にした。
「アタシな、舞夏ちゃんのことは、“アタシの可愛い妹”って思ってんねん」
ん?
んんんんん?
「だからな、もし、ホンマにツラいことがあったら、アタシにちゃんと言ってな?」
そう言って、小首を優しく傾ける。
うう?
ううううううう?
いやいやいやいや、優乃ちゃんはアタシの“可愛い妹”やから!とアタシは抗議したくなるけど、今回は明らかにアタシの負けだ。
“母性愛”みたいに“姉性愛”って言葉が、もしこの世に有るのなら、姉性愛の強さにおいて、アタシは絶対に優乃ちゃんに勝てないと思う。
優乃ちゃんは“可愛い妹”のアタシの為なら、誰も何も怖れないことが証明されてしまったのだ。
それも、アタシの甘えが原因で。
優しい優乃ちゃんの笑みの前で、アタシは「うぅ……」と俯く。
一人っ子のアタシにできた、“可愛い妹”優乃ちゃんやのに……。
アタシがお姉ちゃんのつもりやったのに……。
優乃ちゃんの愛情と自分の情けなさにちょっと泣きそう。




