ヘコヘコ、ペコペコ
優乃ちゃんが大河の教室に乗り込んだのは予想外だったけど、全部の始まりは、アタシの甘えのせいなのだ。
アタシのせいで、優乃ちゃんは敵意に晒されることになったのだ。
ごめんなさい、優乃ちゃん。
だけど優乃ちゃんはアタシを責めない。
「ちょっとゴメン、舞夏ちゃん」
優乃ちゃんは優しく言って、アタシを離した。
そしてストン!と膝を着いた。
武道を嗜んでいる人らしい、綺麗な正座。
「西畑先輩、それから先輩の皆様、申し訳ありませんでした」
媚びも怯えもなかった。
毅然とした発声だった。
だけど、きっと、それを反省が無いと責める人は、誰もいないだろうとアタシは思った。
武道家らしい、心からの覚悟の込もった言葉。
それは正座姿と同じく、美しかった。
そして、優乃ちゃんの体は、そのまま前へと傾いた。
「うわぁぁぁぁぁ! それは違う!
違うぞ、木原ちゃん!」
「アカァン、優乃ちゃん!
待ってェェェ!」
アタシと大河は同時に叫んで、まるで2階から落ちた赤ん坊を咄嗟に受け止めようとする人みたいに、優乃ちゃんに飛びついた。
優乃ちゃんは土下座して謝罪しようとしていた。
そんなこと、絶対にさせない!
大河の方が先に両手で優乃ちゃんの肩に手を添えて、上半身の傾きを止めた。
アタシはそれを確認してビッ!と立ち上がり、「すいません、すいません、すいませんでしたぁ」と乱れた机と椅子の並びを、並べ直した。
優乃ちゃんを惨めな姿になんかさせない。
優乃ちゃんの、申し訳ないという気が済まないなら、その分をアタシと大河が全部埋めて、謝罪の気持ちを現してみせる。
「木原ちゃん、それは待ってくれ。
それは違うよ」
大河が優乃ちゃんの目を見て思いとどまらせようしていて、アタシはヘコヘコ机と椅子を直していく。
アタシにだけそんなことはさせられないと思ったのか、優乃ちゃんも立ち上がって「すいませんでした、すいません」と机と椅子を直す。
大河も、もう大丈夫って思ったようで、「ゴメンな、ホンマ、みんなゴメンな」と机と椅子を直し始めた。
「そうや!
西畑がみんな悪いぞォ!」
男子の声が、茶化すように大きく響いた。
伊東先輩。
大河と仲良し。
だから、雰囲気を笑いに変えようと援護してくれたんだと思う。
実際、笑い声が挙がって、空気が和らいだ。




