フィーネの追求と屁理屈
二度と聞きたくなかった声が聞こえた気がするが空耳だな。寝よう。
『寝るなつーの!』
無視無視。早く眠気よ来い!
『この!』
『言っとくけど、フィーネ。この世界で天罰なんて使ったら、どうなるかわかっているよね?』
『ぐ…』
おや?ピットの声が聞こえた。それにどうやら天罰とやらはこの世界では出来ないようだ。ぷぷ…ざまー!BBAはさっさと俺の脳内から退散しろー!
『あ~…その辺にしてくれるかな? フィーネの目が血走って怖いからさ』
うむ。ピットに迷惑が掛かるみたいだからこの辺で勘弁してやるか。
『どうして上から目線なのよ…こいつ。まぁ、いいわ。場所を変えなさい。この家にいる子を巻き込みたくないでしょう?』
うわ。ひょっとしてユーフィを脅しの道具に使うつもりか?こんなのが女神とか神様は大丈夫なのだろうか?待遇改善を要求する。
『そういう意味じゃないわよ! 話が進まないから外に出なさい!』
やれやれ。注文が多い女神だ。俺は外に出来ると空間に二人の姿が映った。
『まずあなた…やってくれたわね』
『失礼な奴だな。俺は真のロリコンだ。ユーフィには手を出してねぇつーの!』
『そんな話してないわよ! あたなが魔王を復活させた話をしているのよ!』
魔王?何言ってんだ?こいつ。
『そんな奴、俺は知らないぞ』
『えーえー知らないでしょうね。それならこの壺は知ってるわよね?』
あ、俺が金庫で割った壺だ。
『知らね』
『何堂々と嘘付いているのよ! こいつ! 証拠もあるのよ!』
『へぇ。どんな証拠だ?』
すると映像のフィーネが水晶を取り出すとそこに俺が金庫を漁っている映像が流れた。
『この水晶は異世界で起きたことを映し出すことが出来る水晶よ! さぁ、もう言い逃れ出来ないわよ。責任を取って、魔王を封印するか討伐しなさい』
監視カメラの映像のようなものか。
『くだらないな…俺はそんなことをしていない。話は終わりだ』
『はぁ? あんた何言ってるのよ! 証拠があるのよ!』
やれやれだ。これだから熟女は嫌いなんだよ。
『お前の言うその証拠とやらの信憑性はどの程度のものなんだ?』
『はぁ? そんなの100%に決まっているでしょうが! あんた頭、大丈夫なわけ?』
生憎正常だ。そしてこいつは100%と言ったな?
『つまりその水晶で神様の不倫現場とか映し出したら、その映像が確定なわけだな?』
『…』
黙りやがった。所詮女神なんてこの程度か。代わりにピットが答えてくれた。
『まぁ、確定かな。でも必死に誤魔化すと思うけどね』
『つまり誤魔化しが効くわけだな? なら100%じゃない。この証拠は無効だ』
100%じゃない証拠など証拠として機能しない。監視カメラの映像を証拠と言い張る刑事ドラマとかあるが俺に言わせられば話になっていない。その監視カメラの映像が偽造されたものの可能性がある以上、決定的な証拠足りえない。
それは指紋でもそう。人の指紋は一生変化することはなく、一卵性双生児であっても違う指紋であることから個人が持っている指紋は固有のものと定義されている。
しかしそれは100%そう言えるのか俺には疑問だ。だって、その論文を書いた人は生物誕生から全ての指紋を調べたわけじゃないし、未来での指紋も調べてはいない。究極的なところまでいくと宇宙人、今となっては異世界の住人に俺と同じ指紋を持つものがいるかも知れない。
つまりこの定義はあくまで調べた範囲でこういう法則があったと言っているだけのものだ。もしこの定義が事実だとしても第三者の偽造があるから、結局証拠と足りえない。
これは俺の自論だが、この世に偽造の可能性がある限り100%の証拠と言えるのは存在していない。それは神様でも例外ではないだろう。
『屁理屈ばかり言ってないでさっさと魔王を止めてきなさいよ!』
『断る。熟女が俺に命令するな。反吐が出る』
俺が断固とした態度を取るとフィーネは俺が引き起こした事件を語りだした。
『あんたは窃盗だけじゃなく、サ二ーラ王国滅亡の引き金まで引いたのよ』
『アグス王子だっけか? あいつがいるだろう』
『とっくに魔王に殺されているわよ』
あいつ、死んだんだ。
『君にユーフィリア王女を取られて探し出そうと国に帰ったら、魔王が復活してて全滅しちゃったんだよ。なんだか君の名前をロリコンと勘違いしてて、面白かったよ』
なぜ俺の名前がロリコンに?思い出してみよう。
『待て。お前は一体何者だ?』
『俺か? 俺はロリコンだ』
俺の名前はとは言っていないがあの国王がこの話をして、伝わったんだろうな。アグス王子、ロリコンを探し出そうと死す。
さて、これでユーフィを狙うものはこの世界で俺だけとなったわけだ。パッピーエンド。
『どこがよ! あ~もうわかったわよ! 他の人にやらせるから鍵を寄越しなさい』
『鍵? 家の鍵しか持ってねーぞ』
沈黙…何故だ?
『ちょっと待ちなさい。あなた、アポーズで鍵を盗ったわよね?』
あぁ。そんな鍵あったな。
『あの鍵なら売ったぞ』
『はぁ!?』
『ぷー! あはははは! もうダメ! いや~、君は最高だね!』
『あんたは黙ってなさい! いい? その鍵は魔王に対抗するための聖剣の封印を解除するために必要な鍵なの! 急いで捜しなさい!』
へーそうなんだ。その割には金にならなかったな。ぼったくられたか…ち。しかしあのお店に文句を言いたいが生憎出来そうにない。
『それは無理だぞ』
『なんでよ!』
『だって、その村の名前も何も知らねーもん』
再び沈黙。
『あははははは! もうダメ! お腹痛い!』
『笑い事じゃないわよ! 馬鹿! ねぇ! これどうするのよ!』
『お前が見つけて取ってこればいいだろう? はい、解決。俺はもう寝るぞ』
『それが出来たら苦労しないわよ!』
ん?出来ないのか?なんでだ?
『それは神様のルールで他の世界の神様が異世界に介入することが禁止されているからだよ。フィーネが君に天罰が出来ないのも同じ理由さ』
つまり俺が異世界で何しようがこいつはどうしようもないということか!
『何考えているのよ! 何もするんじゃないわよ! 私がどれだけ怒られたと思ってるの!』
なんだ?この世界の神様にフィーネは怒られたのか?まぁ、俺には関係ないことだ。
『大有りよ! あんたの監督不行き届きで怒られたんですからね!』
あぁ、俺の担当とか言ってたな。しかしそれはやはりフィーネが悪いのであって、俺が悪いわけじゃない。
『あぁ! もう! こうなったら、もう知るもんですか! ここで死ね! 天罰!』
俺に雷が直撃する。
「…ん?」
『…へ?』
俺に効果は無かった。
『ちょ、なんで』
『ここで彼に二回も天罰を使っちゃったから耐性を持っちゃったみたいだね。しかも異世界転移しちゃったから神様の攻撃が効きづらくなっているみたいだよ』
『どういうことだ?』
『君は僕らが出来ない異世界を行っている。それだけでフィーネより格上になっているんだよ。本来異世界転移なんて最上級の神。君の世界で言うところの時空神や創造神クラスの能力だからね』
うむ。つまり俺、最強ということか!
『神々からは嫌われる存在ではあるだろうね。ただ異世界の動物からしたら普通の人間と大差ないから最強ではないかな?』
残念…そういえば鳥に普通につつかれて痛かったし、屋根に落ちて重症とかしたから最強なわけないよな。しかし俺をやけくそで殺そうとした女神もどきに殺されることはなくなったし、良しとしよう。すると知らない声が聞こえてきた。
『どこの馬鹿だ! 俺様の世界で勝手に天罰を使ったのは!』
『ヒィイイ!? ピットどうしよう。このままだと私』
『もう手遅れだと思うよ?』
『この神気、フィーネの奴だな! あの馬鹿女神どこだ! 今度は尻叩きぐらいじゃ済まさねーぞ!』
そこから声が聞こえなくなった。恐らく逃げ回っているな。うるさい声はなくなったし、ゆっくり寝よう。