宝物庫と恩返し
俺はランダム転移を繰り返す。
犬に落下すること2回、森でラフレシアのような植物に落ちること3回、壁に埋まること5回、土に埋まること12回、水中に転移すること14回、空から落ちること18回、便所に落ちること23回。
圧倒的便所率に泣きたくなる。ここまでして無事なのはリックがクッションになっているからだ。便利グッズには思わぬ使い道があるものだ。
そして俺は遂に当たりを引くことになる。
「…ここは家の中だな。しかもベッドから見て、かなりの金持ちの家…ようやく当たりか」
俺は部屋にお金になりそうな物がないか探す。古来よりゲームでは他人の部屋に無断で上がり込み、お金やアイテムを漁るものだ。
まずはタンスチェック。男物の服があった。
「ぺ!」
タンスを閉めた。最初のようにはいかないか…まぁ、これで遠慮無用だ。
探したがエッチな本すら見付からない。この部屋の男は男じゃないな。間違いない。
するとドアから足音が聞こえてきた。まずい!
俺はタンスに逃げ込む。すると部屋に誰かが入ってきた。
「あぁ…疲れた~。ってなんだ!? 部屋が荒らされてる!? だ、誰か~! 泥棒だ~!」
盗んでないから泥棒じゃない。しかし大ピンチだ。どうするか…するとピットの声が聞こえた。
『やぁやぁ。面白いことをしているね』
「全然面白くない。ようやく当たりを引けたんだぞ。このまま、何も成果なく終われるか」
『それならアポーズを使ってみたら? 君、使えるようになってるよ?』
アポーズ?あ、ランダム転移を使いまくったから新しい能力を使えるようになったのか!
すると部屋にたくさんの人が入ってきた。考えている暇はない!
「アポーズ!」
…ん?何が起きた?
「声がしたぞ!」
「タンスからだ!」
ヤバい!
「ランダムテレポート!」
タンスが開くとそこには俺はいなかった。ランダム転移した俺は畑の堆肥に埋もれた。
「くっさ!? くそ…こんなのばっかだ。あれ? 意識が…」
俺は意識を失った。翌日堆肥で埋もれたまま寝ている俺は異世界最初の伝説となった。
俺が目を醒ましたら、手に何かを持っていた。見るとそこにはたくさんの金ピカの鍵があった…よし。売ろう。大金ゲットだ。そして鍵を売った質屋で俺は二日間寝ていたことを知った。
「ヤバいヤバいヤバい! もう時間がない! ランダムテレポート!」
しかし上手くいかない…それでも俺は繰り返すしかない!
もう何度になるか数えていない転移をした俺は何かに落下した。馴れてきたな…すると俺に紙の束が落ちてきた。
「ちょ、ま」
埋もれた。普通に死ぬわ!
「ん? これは…お札!?」
どうやら俺は銀行の金庫の中に転移したみたいだ。俺が落下したところからは金塊の山…大逆転ホームランじゃあああ!
しかも宝石や高価そうな装飾品まである。お札や銀はいらん!金塊と高そうな宝石狙いだ!俺はバックに詰めていると外から声からした。
「宝物庫から音が聞こえるぞ!」
「鍵は!」
「アグス王子が二日前に無くして…現在鍛冶師が制作中のはずです!」
アグス王子?それって、ユーフィリア王女を買おうとしているロリコン王子の名前じゃなかったか?
「そうか…ここはあの水色下着…じゃない。あの子を買おうとした奴の宝物庫か」
俺の脳内に遠慮という言葉が削除された。同じロリコンは仲間であるが同じ幼女を狙っているロリコンは敵である。
「どうやって中に入った? くそ! やむを得ない! 強引に壊すぞ!」
『は!』
くそ!急げ急げ!二つのリュックが一杯になる。更にクロスさんたちから貰ったバックもだ。他には…服!そしてズボンの中に詰め込んでいく。すると宝物庫の壁がひび割れ出した。
限界か!俺はパンパンのリュックを背負うと古そうな壺に当たる。
「ん? あ」
壺が落下して割れた…うむ。
「ランダムテレポート!」
俺はもう一つのリュックを持ち、転移すると雪山の雪に落下した。
「さっぶ!」
俺は凍えながら見渡すと遠くに村が見えた。助かった…遠いがこれならなんとかなる。雪山の村にたどり着いたがこんなに遠いとは思ってなかった。しかもズボンやパンツの中に入れて宝石を落とさないように歩いていたから、普通に死にそうだ。
だが、俺は死なん!あの水色下着の王女様がもうすぐ手に入るのだ。死ねるはずがない!俺はすぐに馬車のお店に向かう。
「すみません…ここから最短でパラディス王国の王都まで行くのにどうすれば良いですか?」
「あんた死にそうになっているじゃないか!? そんな服装で徒歩でこの村に来たのか? 早く家に入り」
俺はズボンのポケットから宝石を出し、男性に渡す。
「そんな時間は無いんだよ…教えろ」
「あ、あぁ! この村から最短でパラディス王国の王都に行くには犬橇でディエスの町に向かうのが一番速いだろうな…そこから超特急ハヤーテを使えば時間が合えば一日掛からないぜ」
ディエスの町に行くのか。流石交易の町だな。俺はお礼をいい、犬橇屋に向かう。
「あ? 今すぐディエスの町に行けだ? 無理だ! 無理! もうすぐ吹雪が来るんだぞ!」
宝石を渡す。
「異論は?」
「ない! だが、吹雪の中をそんな荷物を運んでスピードを出すにはそれなりの準備が必要だ」
俺はバックから金塊を渡す。
「足りるよな?」
「も、勿論だ! すぐに準備してくるがスピードは保証するが安全は保証しないぜ?」
「構わない」
「…わかった。あんたは食事と服装をなんとかして来るといい。それまでに準備を終えとくよ」
俺は最初に宝石用のバックを買い、ズボンやパンツの中に入れていた宝石をバックに移した。これで気にせず、歩ける。正直歩きにくいし、こつこつ当たって滅茶苦茶痛かった。
その後、言われた通り飯を食べて道中の食糧と服を買い、犬橇屋に向かった。
「…犬橇?」
そこにはフェンリルのような巨大な狼がいた。こんなところから犬橇で一日かからないのは変だと思ったが、これなら納得が行った。
しかも荷物と安全のためか馬車で引かせる立派な車まで用意してくれていた。
俺は車に乗り、雪山の村を出発した。
その日、俺はシートベルトの重要性と新幹線の素晴らしい安全性を身を持って知った。
新幹線並の速度で雪山をシートベルト無しの馬車で降りたら、どうなると思う?
「だ、大丈夫か? あんた」
「らいひょうふだ。もんひゃいない。(大丈夫だ。問題ない)」
馬車の中をボールのようにぶつかり続けた俺はお礼をいうとへばっているフェンリルと視線があった。
俺は村で買ったお肉を上げた。するとフェンリルは美味しそうに食べる。俺は人間嫌いだが、動物は嫌いではない。俺の無茶に付き合ってくれたこいつに礼をするぐらいの心はある。
「ありがとうな」
俺はその後、超特急ハヤーテ、この町で一番早い馬車を予約する。少し時間があり、情報を集めるとまだアグス王子は来ていないそうだ。勝った!
その後、俺はバッグにある宝石などを貸金庫に預ける。持っていくと欲に目がくらんだ馬鹿に狙われるからな。そして金塊を俺はクロスさんたちの家のポストに入れて、町を出発した。男の別れに言葉はいらない。
「あなた…これ」
「間違いなく彼だろう。驚いたな…なんとも不思議な青年だった」
この出来事が落下青年の恩返しという童話になるのだが、それはまた別の話。