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白輝伝:出会い  作者: らくしゅ
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第10話 古楓再び

その頃掃除をさぼった洸は、手に厚揚げが、入った袋を下げ結界の前で頭を掻いていた。




洸の霊力は、この結界を張っている者より強いが、無理に結界を破る訳には行かない。




先程の様に子供達を脅え泣かす事になるのがとても怖かった。


しかし子供達に危険が、迫っているのを黙って見過ごす気は無い…が…泣かれるのはつらい。




立ちすくみ悩み続ける洸を傾き始めた日差しが包む。茜色の光りが、白いシャツをオレンジ色に染め始める頃・洸は、やっと決心を固め結界を背に自宅が、ある方向に体を向け大きく深呼吸する。




白蛇はくじゃ」とその者を呼び、じっと目前の空間を凝視する。




やがて何も無い空間が、ゆらりとゆらめきその中心部より白い指が、見え続いて窓から身を乗り出すように少女の上半身が現れた。




「なんじゃい…夕餉の支度で忙しいと言うに。道草などせず早よう帰れ」




洸が語り掛けるより早く言いたい事を言い捨て再び空間に戻ろうとする少女の長い三つ編みの黒髪をはっしと握り洸は懇願した。




「白蛇お願い…助けて」


「妾は忙しいと言うておるのに」


「ご飯は霞兄が、作るじゃないか…力貸してよ~」


「霞はおらぬ」




事情が掴めずキョトンとする洸に父と兄が、封気の仕事で、出掛けたと白蛇が説明をする。




「それじゃ…オレ今夜ひとり、ラッキー」白蛇の説明を聞き終えた洸の返事は喜びに溢れていた。




ズイッと蛇眼の少女が、白い手を伸ばし洸の耳を掴みねじる。


「イタタ…痛いよ。白蛇」


「絖守が居ないと夜更かしするつもりじゃろうが、今夜は妾が見張りじゃ。寄り道などせず早よう帰って来い。来ないと~仕置きじゃ」


薄笑いを浮かべ少女は、洸の両頬を左右に強く引っ張る。




「はぐじゃ~いだいよ~」


三百年以上生きているこの妖魔に幼い頃からいじめ続けられオレは不幸だと何度叫んだだろう。




グイグイ洸を攻める白蛇の攻撃が、突然止まる。その隙に手が届かない場所まで避難・白蛇のバカと呟き痛む両頬を摩り少女を見上げる。




蛇眼を細め少女は、洸の背後を凝視した。




白蛇の視線の先には、歴史の教科書で見た平安時代の衣装を着た老人が立っていた。




白蛇が仕掛けたバカ騒ぎに油断した洸は、新たな気の出現に気付かなかった。「あの」近寄る洸を身振りで押し止めた老人は、しわがれ声で告げる。




「そこの者・比処より早々に立ち去れ、二度と近寄るでないぞ」




「妾を呼んだのはこれかい」




いつの間にか白蛇が、移動空間より抜け出し洸の脇に立ち老人と向き合う。




「我らは人と交わらぬ。早々に去れ」


再び警告を告げ老人の姿が、ゆらりと揺れ消えた。




「待ってください」洸は慌てて老人の消えた場所へ駆け寄ろうとしたが、白蛇に襟首を掴まれ引き戻された。




「何すんだよ」「それはこちらの言葉じゃ。よもや絖守との約束・忘れてはおらぬな」「忘れてない」「まことじゃな」「本当だってば」




去年の少女殺人死体遺棄の事件後たっぷり灸をすえられ勝手に封気を行わない。無暗に妖魔・霊に近づかない事を父・絖守と再々度・約束した洸だが、父との約束より子供達への興味の方が勝った。




「約束は忘れてない…忘れてないけど…人型の妖魔なんだ。まだ小さくて可愛いくて大きい方は、怪我をしてるし、ここに体育館が、建つから危ないんだよ。だからオレの家に連れて行こうと思って、だけどオレひとりじゃ無理だから白蛇を呼んだんだ」




襟首を捕まえ続ける白蛇の手を払い洸は、思いの全てを吐き出した。いつもと違う洸の真剣な顔と態度に白蛇は興味を引かれた。




「も少し妾に、判る様に説明してみろ。幸い今夜は、絖守と霞は留守じゃ。内容により協力しても良いぞ。夕餉の支度が、少々遅れるが、煮物を食べるのはお前だし…あっ煮物を…鍋をコンロにかけておった。ちと台所へ行って来るでの、比処で待っておれ。話はそれからじゃ」と言い置きショートワンピースを着た妖魔は、エプロンをひるがえし大変じゃ鍋が焦げる~と移動空間へと消えた。




移動空間は、白蛇の霊力でつなげる霊道であり白蛇より大きな霊力を持つ妖魔・人間は通り抜けられない。




ひとり取り残された洸を夕闇が包む。


雑木越しに街頭の明かりが、見え遠くから町の喧噪が聞こえる。


秋の到来を示す虫の音と共に空腹を示す腹の虫も鳴く。




「腹へったぁ〜あっ…月」




闇の空に淡い光りが、広がりやがて辺りは、昇り始めた月の光りに包まれる。




白蛇が戻るまで何もする事が、無い洸は、暇を持て余しブラブラ結界の境に近づくふと視線を感じ見上げれば、楓の太い枝に先程の老人が立ちこちらの様子を見ている。

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