ターフに夢を棚引かせ・・・
1998年11月1日。東京・府中の一角から大歓声が木霊している。暦の影響で久方ぶりの11月開催となったこのレース。マイル戦線の短距離馬も参戦する、2000mの芝コースを舞台に、この日は12頭が勢揃いしていた。
第118回・天皇賞(秋)。平成10年11月1日、1枠1番に指定され、1番人気。とある一頭のサラブレットがこの日、このターフで散った。誰もが信じて疑わなかった、最後に辿り着くであろう最後の“1”を、観客たちが見ることはなかった。
その“逃亡者”をファンは、今でも忘れてはいない。競馬に「if」も、「たられば」もない。そんなバカげた話はない。しかし、そんな彼をどうしてもゴール板まで迎えたい。
その夢が、あの日のターフに棚引いた……。
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13万を超えるこの手拍子に送られて、盾も踊るGI大捜査線。スタート前から指名手配を受けました、栗毛の静かなる逃亡者に対して、果たして追跡者たちの秘策は、あるんでしょうか。
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当時放送されていた刑事ドラマになぞらえるアナウンサーに、夢の中の逃亡劇を実況してもらおう。
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靄の向こうのスタート地点。
ゲートが開きます。
ポーンと白い帽子、サイレンススズカが、仮柵が内側に移動したグリーンベルトに向かって、ずーっと上がっていく。
さあ期待にこたえて武豊とサイレンススズカ早くも先頭、そして6番のオフサイドトラップ、ゼッケン7番サイレントハンターが2番手につけていきます。
外を通りましてステイゴールド当たり、2コーナーのカーブへと入っていきました!
早くも、早くも8馬身ぐらいの差をつけて、サイレンススズカと武豊が行く!
これだけ引いても後ろが見えない! 2番手、ようやく見えてきた。7番のサイレントハンターがつけている、これも単独の2番手!
その後ろも6馬身から7馬身、6番のオフサイドトラップ。ステイゴールドがつけている。メジロブライトこの位置、テイエムオオアラシ。ランニングゲイル、外を通りましてグルメフロンティア。
内からシルクジャスティス、ゼッケン8番サンライズフラッグ、そして5番のゴーイングスズカが続いています!
かなり縦長の展開、間もなく3コーナーの手前! 1000メートルの標識は、果たしてどのくらいで通過していく、いま通過! 57秒台で過ぎていった!
3コーナー、飛ばしに飛ばしてサイレンススズカ! 武豊が行っている! まだその後ろ、単独の2番手でサイレントハンターが続いている!
後続の各馬、大丈夫なのか! 捕まえることは出来るのか!? 大欅の向こうを過ぎていきました!
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3番手集団とはもう100メートル近い差がついている! ステイゴールド、メジロブライト上げてきたがしかし、武豊が、サイレンススズカがたった1頭! たった1頭4コーナーのカーブへと入りました!!
府中の直線500m、サイレンススズカ先頭! サイレントハンター2番手だが遥か後方! ようやく4コーナーに入ってきた! 大欅を抜けて外からメジロブライト、ラチ沿いでステイゴールド上がってきた。中を突いてオフサイドトラップ。
しかし武豊、右ムチ一発。サイレンススズカ、最後の坂でさらに離す! 一気に突き放す!!
もう後ろからは何も来ない! 黄金の馬体が西日に揺れて、サイレンススズカ一人旅!! これはもう届きそうにない! 絶対に届かない!!
どこまででも逃げる! 逃げ果せるとはこうゆうことだ!!
サイレンススズカ、秋の天皇盾、大逃亡劇で掴み取りました!!
2着争いはどうだ! サイレントハンター捕まった。オフサイドトラップ、ステイゴールド!
外からメジロブライト届かない! 2着には8歳馬・オフサイドトラップ! ステイゴールドはわずかに3着か。 サイレントハンター逃げ粘った。メジロブライト一歩及ばず!
追跡者11頭、成す術無し。どの馬も、影さえ捕まえられませんでした! そして……、レコードの赤い文字が輝いています!
とんでもないタイム。なんと、1分56秒9! 恐ろしいレコードが、この府中のターフで生まれました! これは恐れ入りました!
エルコンドルパサーよ、エアグルーヴよ、スペシャルウィークよ。見たか、これが影をも踏ませぬ逃亡者だ!
ジャパンカップで、さあ震えて待っていろ!
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サイレンススズカ。
ただの逃げ戦法ではなく、2番手を大きく突き放す大逃げの戦法でファンを沸かせ、「逃げて差す」という、二の脚で相手をさらに突き放す、異次元の速さを見せた快速馬。あの秋のターフに散った彼の実力は、決してそれでは終わらなかったであろう、GIたった1勝の幻とともに天へと逃げ失せた。
ウマ娘プリティーダービーに端を発し、障害競走の絶対王者・オジュウチョウサン、衝撃のレコードを叩き出した三冠牝馬・アーモンドアイ。
これまでにない注目を見せた2018年の競馬界に引き付けられたが故の駄文です。最後までご覧いただき、ありがとうございました。