探検家の凛さん
草木がサラサラと心地よい音を立てている、川の流れもゆったりしていて、太陽が激しく自己主張している。
「....熱いな、まだ5月だっていうのに。」
そんな中、一人の青年が山を探検していた、彼の趣味は山で色々な生物を研究することなのだが、今日はそういう目的ではなかった。
友人の付き添いだ、なんでも背景画を描くのにネットの奴じゃいまいちピンと来ないらしいので実際に見ながら描きたいということ。
昔からお世話になっているという事で「そんないい場所知らないけど、俺でいいなら手伝わせてくれ。」と言ったものの....
「...よし、ついたぞここなんてどうだ。」
俺が紹介したのは、綺麗な川が流れていて、岩も自然の良さがある場所だ。
辺りを見渡せば木が生い茂っていて草も山奥でしか見ないような不思議なものばかりだ。
「悪くないと思う、だけどこれくらいならネットで探せばいくらでもあるからもうちょっといい場所ない?」
このようにして断られる、やはりこの手の事は俺に聞くのではなくそういう専門の所で聞いたりネットの人に質問したらいいのではないかと思ったが受けてしまったものは仕方ない。
だが次も駄目、次も駄目で。
夕方になってしまった。
現在で二十回近く場所替えをしている、綺麗な景色がいいという事で事前に先生に聞いたり地域の人にお勧めの場所を教えて貰ったのだが...それも全滅した。
流石にもう疲れたのでここで諦めてもらうことにした。
俺の友達は残念そうに「....判った。」と言って荷物を降ろした。
そもそもこいつは疲れないのだろうかとも疑問に思った、画材とか持ち込んだ分俺より荷物は重いはずなのだが....もしかしていつもこういう事をしているのではないかと思った。
「休みの日とかいつもこういう事してるのか?」
「うん、まぁ....いい所ないんだけどね、ここら辺だと滝とか色々あるんだけどネットの方が綺麗に見えたりするから最近はネットばっかり検索してたんだけど、新鮮味に欠けてね、ネットだとモチベがいまいち上がらない。」
そういいつつ、画材を準備していた。
水彩画か....昔やってみようと思って家で飼ってる蛇を写真で撮って描いてみたのだが、いまいちうまくいかなかった。
まず下書きを描き過ぎた。
ネットで調べてみたが、そこまで下描きはいらないそうな。
後は単純に画力不足、色彩感覚も全然なかったので自分には到底無理だなと割り切っている。
そんな事を考えていたら、準備が終わったのかパステルを削り始めた。
....あれ、パステル使うのか。
「絵具は使わないのか?」
「使おうとも思った、でもパステルも最近練習したいと思ってるから。」
そう言ってパステルを削って画用紙に振りかけていく、何を考えて振りかけているのか全く分からない。
ネットでも色々見たことあるが、上手い人は何考えてるのかほんと判らない....
さて、暇だし俺は川にいる魚でも眺めるとするか....ウグイいるじゃんって事はこの川はある程度綺麗って事か。
見た目からしたらだいぶ綺麗なのだが、こういう生物とか発見するとほんとに綺麗なんだなと思う。
ん?あの魚は....パーマークがあるからアマゴか。
そんな事を30分くらいしていたのだが。
...飽きた。
研究などは好きなのだが、下調べしてその生物を探す、カメラを設置して行動を録画する。
というのが俺の研究のモットーであって、こういうたまたま見つけた生物を研究しようとは思わない。
そうだ、昔の事でも思い出すか。
...そいや俺とあいつっていつ再開したんだっけか。
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桜の花びらが舞う、生徒達が緊張しながらも門をくぐっていく。
その中に他の生徒とくらべものにならないくらいガチガチに緊張していた男が居た。
(落ち着け俺....素数を数えるんだ.... 2 3 5 7 11)
手のひらに人と書いて食べたりもしている、他の人から見たら明らかに不審者である。
制服を来ているから辛うじて、同じ学校の生徒なんだなと他の生徒はなんとか認識できた。
そして皆こう思った。
(((入学式であそこまで緊張するのか)))
足がガタガタ震えているのが見えるがあれは至って健康状態だろう、そう思って関わらないように他の生徒は進む。
そんな中一人の女性が俺に話しかけた。
「大丈夫か?」
「えっあっはっはっはぁ!」
びっくりした...っていきなり奇声あげてしまった。
うわ...絶対変な人と思われた。
「....この近くに精神病院あるから行く?」
良かった、人が悪ければここでじゃあねと話しを切られるところだった。
とりあえず汚名返上のためにも普通に対応するか...
「あっ大丈夫です、ちょっと戸惑っただけで。」
「そうか、名前は?」
「....沖野 凛です。」
「そうか、私は田中 志久という。」
改めて見ると....美しい...例えるならそう...薔薇のように綺麗で美しい。
見るだけで心が躍ってしまいそうになる、鼓動も少し早くなってしまうだろう。
「そうか、所で沖野さんも友達を待っている所か?」
「い、いえ勇気が出ずに門を通れない状態なだけです、そちらは誰か待ってるんですか?」
「ああ、小学生の頃仲が良かったクラスメイトだ、と言っても相手はこっちが待ってるのを知らないがな、だから追い越されないように先に待っていた。」
「そうなんですか、では私がいつまでいるのもちょっと邪魔ですね。」
そう言って立ち去ろうとするとその女性もついてきた。
「....苗字と口調が変わったから気付かないのは酷いと思う。」
....ん?この口調は...あーそういえば小学生の時のクラスメイトに篠原 志久なんて子が居たようなきがする。
「...一応聞きますけど篠原さんですか?」
「うん、口下手なのは治ってないからあえて拗らせてみた。」
「判りにくいわ、綺麗なのは相変わらずだけど名字変わってたら絶対判らないから。」
....そもそも小学二年生の時に引っ越してどっか行っちゃったからな...覚えてるのが不思議なくらいだった、
でもそこまで仲良かったっけ?....うーん...あっ....
ちょっと恥ずかしいこと思い出してしまった、今すぐ忘れたい。
「んじゃ、行こう。」
「ちょ、ちょっと待って心の準備がまだ。」
「じゃあ3分待つから、その間に呼吸整えてね」
....ふぅ...大丈夫だ一人じゃないぼっちじゃない中学生の頃みたいじゃない大丈夫だ俺には支えてくれるパソコンたちが、生き物たちがいる。
蛇のスネスネだって家で応援してくれてるきっとよし俺ならいける。
「えっと...大丈夫だと思います。」
「そう、じゃあ行こう」
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「うわ...酷い。」
「えっ?この絵そんなに酷い?」
「あっえっあっあっあっ違う。」
咄嗟に違うと訂正する、手を左右に思いっきり振って違うという事を強調する。
「再開した日に事を思い出しててな、改めて思い返すと情けなかったなと」
「あぁ...でも昔からあんなんだったから、私は気にしてないよ。」
それは果たしてフォローになっているのか。
と思った所で、絵が完成したみたいで画材をしまい始めた。
「よし、すっかり暗くなっちゃったけど帰ろう。」
「そっち家遠いだろ、今日は泊まっていけよ。」
しれっと泊まっていけと言ったが今は俺達は大学生で二人共一人暮らしをしている。
大学は違えど高校が同じならば行く大学も近くて、なんだかんだ仲良くやっている、俺の蛇を描いてもらった時は感動した。
あれが原因で水彩画に興味が出たんだが、本当に綺麗だった。
っと話がずれたな。
「んー、判った。」
「あっそうだ久しぶりにスネスネ描いてくれよ、描いてもらったのが高校の時とはいえ感動した。」
「えっ、まだ持ってたの?...うっ昔の画力の低い絵を考えると頭が痛くなる。」
「そんな事ないってすげぇ嬉しかったしスネスネもきっと喜んでた。」
そんな事を言いながら二人は帰っていった。