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ダンジョン作家の放課後  作者: 軌条
透流のダンジョン
2/18

調査


※ 村重透流 ※



 警官の対応はびっくりするほど簡素なものだった。ダンジョン内に生命探知をかけ、何の気配もなかったので、盗品がないことの確認と、現場の記録だけして帰ってしまった。最近寒くなったねと世間話を振られたがまともに返事する気になれなかった。そりゃもうすぐ12月なんだから寒いだろう。

 如月のダンジョンについては罠魔法の誤動作、透流のダンジョンについては、所詮高校生が造ったダンジョンなので何らかの欠陥があるのでは、と遠回しに言われた。

 如月はその件について透流の代わりに怒っていたが、ダンジョン内の魔力濃度の低下原因としては、その可能性が最も高いことは確かだった。ダンジョン建材の強度に問題があり、ダンジョン内の魔力が異空間ストレージに漏出、濃度が低下したというケース。しかし透流は自分の仕事に自信があったのでそのことについて真剣に考えなかった。


「今度、ダンジョン内の内壁を検査してみる。穴が空いてるかもしれない」


 透流が言うと、如月は頬を膨らませながら、


「警察の人の言葉だからって正しいとは限らないよ。少なくとも村重くんは、もうダンジョンを造り始めて五年は経つんでしょ」

「そうだけど」

「ベテランじゃん。もっと自分に自信を持って!」


 励まされてしまった。しかしベテランだからという理由でダンジョン造りを失敗しないとは限らないわけだし、そもそもダンジョン建材は経年劣化する。定期的な検査と修繕は必須であり、透流の見通しが甘くて早くダンジョンの寿命が来てしまったのかもしれない。


「ダンジョンをくまなく調べてみる。如月と違って、俺は管理がずさんだったから……。良い機会だ」

「でも、もし誰かが潜んでたら? 怖くない?」

「警察の人が生命探知魔法をかけてただろ。それに、魔力濃度が通常より低い、という状況だけで中に人がいると推測したのも、ちょっと無理があったかもしれないなあ」


 少なくとも警察の人はそう考えたらしい。実際に罠魔法が発動した如月のダンジョンについてはわりと入念に調べていたような気がするが、透流のダンジョンは形式だけ済ませてさっさと調査を切り上げていたような気がする。


「そんなことないよ。ダンジョン内の魔力濃度が低くなるって、結構おかしなことだし」

「おかしいとは俺も思う。けど、安全そうだから詳しい調査も俺一人でできそうでもあるんだ。魔法が暴走したとか、危険な魔法生物が出現したとか、そういう事態は考えにくいだろ」


 魔力濃度が異様に高まっているのなら、あらゆる危険を考えなければならない。ダンジョン保全課の事故処理のエキスパートたちが出張ってくるような案件である。しかし低い分には問題は少ないように思えた。それはつまり普段人間たちが過ごしている通常空間と似た環境だということだ。ダンジョン内が危険とされている理由の一つとしてその魔力濃度の高さが挙げられる。魔力濃度が高ければ魔法の効きが高まり、魔法触媒や魔法生物の働きも活発になる。それだけ、事故の危険や可能性が高まることになる。そもそも魔力自体人体に有害でもある。


「でも、一人で調査するのはやめて。心配になっちゃう」

「いや、心配ないよ」

「いいから! 私も手伝うよ。一人でやっちゃダメ。もし私と一緒に調査したくないっていうなら、他の誰でもいい、誰かを立ち合わせて。ね?」


 そこまで心配されると、拒否できなかった。透流は如月のことをおせっかいだと思ったが、その優しさをひしひしと感じたので、今回は悪い気はしなかった。彼女に感謝し、そして翌日から一緒に自作ダンジョン内を調査することを決めたのだった。

 もちろん、このことは誰にも秘密だった。創史に対しても。しかし彼は警察の対応に不満を抱いたのか、しきりに透流に対してぐちをぶつけてきた。対面しているだけならまだしも、携帯端末のチャットアプリでもうだうだと文句を垂れ流し続けている。透流が返事をしなくてもずっと続けているので、よほど悔しかったのだろう。


「透流の判断は正しいに決まっているのに……。だから警察は遅れてるんだよ……。未だにダンジョン事故の調査をろくに魔法について勉強していない一般の警官に任せてるんだからな……。魔法省から人材を引っ張ってこい! そしてこの総ダンジョン作家時代が直面するであろう諸問題に迅速に対応して欲しい! おれは強くそう思うよ! な、透流!」


 しかし同意するはずがない。魔法、そしてダンジョンの知識は、もちろん一般の人間でも望めば幾らでも習得することができるが、所詮は数ある学問の内の一つでしかない。就職先が限定されたり、目立ち過ぎると公安からマークされるみたいな噂もあったり、ネガティブな面もある。警官の中でも魔法知識豊富な人間はそれほど多くないだろう。

 重大なダンジョン事故、魔法犯罪等には、魔法省の特殊部隊が対応する。特にダンジョン事故については、魔法省外局ダンジョン庁保全課の職員が出張る。それほど大きな組織ではないので、本当に警察が手に負えないような大事故にしか出動しないが、精鋭揃いであり、武闘派魔法使いを夢見る学生諸子にとっては憧れの職業でもある。

 透流は創史のチャットに数文字の相槌を打ちながら、保全課のスペシャリストが今の透流のダンジョンを見たらどう思うのか、少し気になった。よくあるダンジョンの欠陥だと一蹴するのか、得体の知れない外的要因を思い描き詳しく探査するのか。


「なあ、透流、お前のダンジョンに欠陥なんてないってこと、警察の連中に報告書付きで教えてやろうぜ! 明日の放課後、ダンジョンの見取り図を持って公園に集合すること!」


 と、創史は勝手に決めてしまっていた。厄介なことに、透流は彼に言われるまでもなくそうするつもりだったので、結果的に創史の誘いに乗る形になってしまう。それが癪だったし、どうして創史はここまで透流に味方してくれるのか不思議だった。

 創史とは幼馴染だが、それほど仲が良かったわけではない。小学生の頃はよく遊んでいたが、中学校に進学してからはそれほどでもなくなり、地元の同じ高校に進学しても、別のクラスになったので特段会話せず、たまに話しても毒舌が飛んでくることもあった。

 それなのにダンジョンを造っていると知った途端、昔のように関わってこようとする。彼の何を刺激してしまったのだろうか。透流は懐かしいなと思ってしまった。昔からリーダーシップを発揮していた創史は、小学生の頃、よく透流や他の男子を連れて色んな遊びを考えて実践していた。その強引な誘い方を鮮明に覚えている。今の創史は、あの頃のガキ大将的な言動になっていた。


「そんなにあいつ、ダンジョンに興味あったのか」


 意外というわけでもない。昔から冒険だの魔物だの、そういう話に目がなかった。だが高校生になってまだそういうものに興味があったとは。恐らく、周囲には漏らしていない。もし漏らしていたら、創史の影響力から言って、創史の通っている高校ではダンジョン関連の話題がもっと多くなっていただろう。ダンジョン造りがブームになっていたかも。

 透流は翌日の放課後、見取り図を持って公園に向かった。テニス部の創史、ダンジョン研究会の如月が先に待っていた。帰宅部の透流はともかく、二人は部活動があるのではないのか。


「そんなもんどうでもいいんだよ」


 と創史はあっさり言う。


「どうせテニスなんて暇潰しだしな。あ、もちろん、真剣にやっている人を馬鹿にするつもりはないが。おれにとっては帰宅部になることを避けるための仮初めの所属先さ」


 如月は創史を横目に、既に透流のダンジョンの予備調査を終え、透流に結果を話してくれた。


「魔力濃度がちょっとだけ回復してる。依然低い水準だけど、正常と言えなくもない濃度まで」

「え?」


 透流は首を傾げた。魔力濃度が回復している? ダンジョン構造に欠陥があるのならまずありえない事態だった。如月も顔を顰めている。


「ちょっと私には原因がよく分からないわ。村重くんはどう思う」

「俺もよく分からない。魔力濃度を低めていた要因が消え去ったのか、あるいは」

「誰かがいるんだ」


 と、創史は低い声で言った。


「ダンジョン内に誰かが潜んでるんだ。警察を呼ばれたからびびって、対策を講じたんだ」

「おいおい」


 透流は呆れた。


「もし警察にびびったのなら、とっくに出ていってるだろ。仮に昨日いたとしても今はもういない。対策を講じたというより、出て行ったから魔力濃度が回復した。そう考えるほうが自然だろ」


 透流の言葉に創史はにやりと笑った。


「透流も、ダンジョン内に誰かがいたって思ってるんだな?」

「いや、仮にそうだという前提で話をすると、ってことだよ」

「いいんだよ。ロマンだろ。ダンジョン内に見知らぬ誰かが潜んでる。かくれんぼみたいなもんだ。楽しいよなあ」


 創史はやたらとにこにこしている。透流は自分のダンジョン内に得体の知れない何かがいるかもしれないと思うと、あまり気分が良くなかったので、創史をぶん殴りたいくらいだった。


「あのな、ふざけるなよ。ダンジョン内は危険なんだから」

「罠魔法も、敵対的な魔法生物も置いてないんだろ?」

「罠魔法が少しだけある。今は機能を全部停止させてるけど。ビオトープもあるから、魔法生物が発生している可能性も」

「でも大した奴はいない。そうだろ? 油断せずに行くのはいいけど、あまりビビり過ぎてもな」


 確かにそうだ。ダンジョン自体は危険ではないはずだ。しかし、ダンジョンを舐め腐っている創史を見ていると不安になる。


「大丈夫だよ、村重くん。私たちも一緒に行くんだから」


 如月は言う。


「村重くんの言った通り、警察の人が来たから、仮にダンジョンに誰かが潜んでいたとしてもとっくに逃げてるよ。危険はない」

「それは分かってるんだけど」


 透流と如月が話をしている間に、創史がダンジョンの入り口に立ち、いつの間にか透流からくすねたパスキーを差し出した。パスキーの形態は千種万別だが、透流は自転車の鍵によく似た形状のものを採用している。固有の魔法因子を練り込まれたそのパスキーがダンジョンの入り口を開放する。


「ダンジョンに名前つけてないのか」


 創史が訊ねる。透流は少し躊躇したが、


「試作五号。そう呼んでる」

「味気ないな。でも五個目なのかあ」

「いや。最初に造ったダンジョンだよ。設計図が五個目」


 そう幾つも造れるほど予算があるわけではない。今まであったものを増築したり一部壊したりして、ダンジョン造りの技術を磨いてきた。

 創史がうーんと考え込む。


「おれがナイスな名前を付けてやろう。透流の造った試作品だから……、トオルのダンジョン、トライアルエディション!」

「ダサいよ。やめてくれよ」


 透流はうんざりしたが、如月も意外と乗り気で、


「村重くんのダンジョンの特徴は? そこから名前を付けるのがベターじゃない?」


 と言い出した。創史もうんうんと頷いて聞く態勢になっているので、仕方なく透流は答えた。


「色々と実験したいから、様々な環境に設定した小部屋を幾つも造ってる。通路は基本的に一本道で、迷宮って感じにはしてない」

「なんだそれ。そんなのがダンジョンを名乗っていいのか!」

「試作品だし、俺の練習みたいなもんだし。行き来しやすいようにエレベーターも完備」


 創史は腕組みをした。


「小部屋がたくさんで、エレベーターで階層移動も容易か。ホテルみたいな構造をしてるってことか?」

「ああ、そうそう、そうだな」


 透流の頷きを見て創史はにやりと笑った。


「なるほど。ではこの命名大臣の創史がネーミングを発表する。透流のダンジョンの名前は、ダンジョンホテルだ!」

「は? ダンジョンホテル?」

「ダンジョンっぽいホテル。それならこのダンジョンらしからぬ構造にも納得がいくだろ。そういうことにしておいてやるよ、なので堂々とダンジョンを名乗ってよし!」

「いやお前の許しなんかどうでもいいけど……。ホテルとは全然違うからな」


 しかし言い出した創史はもう撤回しないだろう。そんな予感があった。

 解放されたダンジョンホテルの入り口。異空間ストレージとの繋ぎ目として設置してあるウェハーが負荷によって反り上がっている。空間の切れ目がり合い大きな歪みとなる。穿たれた異空間に先頭に立って進んだのは創史だった。完璧に案内できる透流を差し置いてずんずん行くので焦ってしまった。


「おい、俺が先に行くって!」

「そんなの冒険じゃねえ!」


 そう言って創史は先頭を譲ろうとしなかった。通路は狭く、追い抜けないことはないが創史がブロックすれば先頭に立つことは難しい。透流は自分のダンジョンで誰かが怪我することを恐れていたが、如月は笑っていた。


「大丈夫だよ、榊原くんは学校のダンジョンでも一番の成績だったし」


 学校にある教育用ダンジョンでは実践魔法の授業が行われる。選択科目の「応用魔法演習」ではダンジョン踏破演習も行われたそうだ。それには透流は参加していないが、創史は稀に見る好成績で、滅多に笑わない担当教諭を破顔させたことで話題になった。

 透流はそれを知っていたがそれでも心配だった。一応娯楽用ダンジョンとしての要件を満たしている。安全基準にも反していないだろう。だが誰かを招くことを考えていなかったダンジョンなので不安だった。もし誰かを入れると分かっていたなら、構造からその中のギミックに至るまで、あらゆる場合を想定して丹念にシミュレーションを繰り返しダンジョンを構築したかった。


「おらおらー、魔物出て来い。誰かいないのかー」


 貧弱な照明のおかげで辺りは薄暗い。創史は足を止める様子もなく進んでいく。途中にある小部屋のドアも全て開けて、そのまま閉めずに先に行った。

 如月は透流の後ろを歩きながら、


「洞窟系の内装ね。一番人気の」

「人気というか、一番安いんだよ。洞窟系のダンジョン建材は種類も豊富だし、どうせならダンジョン全体の雰囲気を統一したいじゃん」

「分かる。けど、実験ダンジョン用建材のほうが、村重くんのダンジョン造りの趣旨に沿っているんじゃない?」


 透流は頬をかいた。少し言いにくかったが、


「……やっぱり娯楽用ダンジョンとしての見た目も重視したかったというか。実験ダンジョン用って、タイル張りみたいになるだろ?」

「そうだね」

「ダンジョンって感じじゃなく、本当、ホテルとか、研究所みたくなるじゃん。それは嫌だったんだ」

「ふうん」


 創史が振り返らずに進んでいくので、透流と如月は小走りについていった。如月は息を少しだけ乱しながら、


「小部屋は幾つあるの?」

「40……、いや、最近41個に増やしたんだった」

「最初の段階では? つまり、設計図の段階では」

「最初は20個。でも最初から増築前提で設計してるからな。理論上は300個以上部屋を置けるはず」

「へえ。先のことまで考えてたんだ。五年も前に造ったやつでしょ?」

「小遣い全部はたいてダンジョンキットを買ったから、無駄にはできないと思ったんだよ、悪いか?」

「ううん、賢明だと思う。私もダンジョンのスペースに困ってるから。広くし過ぎても維持費がかかるしね」


 三人はダンジョンの奥へと進む。全四階層になっていて、下がるたびに気温が下がった。検知計を移動しながら見ていた透流は、下にいけばいくほど魔力濃度が下がっているのを確認した。

 途中にあったビオトープ――魔法生物の繁殖場もチェックしたが、生命の気配はなく、魔力供給を受けずに色褪せた魔法触媒と埃をかぶった台座が見られるだけだった。


「良かったな。バイオハザードが起こってなくて」

「まあな」


 三人はいよいよダンジョンの最奥に辿り着いた。通路の行き止まり。創史は困ったように振り返った。


「おいおい、ここまで異常なしだぞ。誰もいないし」

「結局、原因も分からないし」


 如月も少し疲れたように言った。しかし透流には違和感があった。


「ちょっと待ってくれ。そこの壁」


 透流は行き止まりの壁を指差した。洞窟系の内装……、しかし一部分だけ微妙に模様がずれているように見えた。


「どうしたんだ、透流。別におかしなところは」

「違うんだ。これ、まさか」


 洞窟の模様を指差す。その表面を撫でると奇妙につるりとしていた。如月も近づいた。


「自動修繕の痕……?」


 ダンジョンに微細な傷を自動で修繕する機能を付与することができる。透流も試験的に導入している区画があった。まさにここはその区画でもあった。


「ええと、つまりどういうことだ?」


 創史が訊ねる。透流は俯いた。


「昨日、ダンジョンに傷がついて、そこから魔力が流れ出て、魔力濃度が低下した……。今日、ダンジョンの自動修繕で穴が塞がり、魔力濃度が回復した……、ということだと思う」

「まじかよそれ」


 創史はがっくり肩を落とす。


「結局警察の言ったことが正しかったってことか?」

「だな……。俺が変なこと考え過ぎた」


 透流は落胆した。いったいどういう理由でダンジョンに穴が開いたのか分からないが、その証拠が目の前にある以上、外的要因で魔力濃度が低くなったということはなさそうだった。ダンジョンの欠陥、あるいは建材の老朽化などが原因だと思われる。

 うーん、と如月が修繕痕を見詰めている。


「でも、なにか妙ね」

「……何が?」

「ダンジョンの自動修繕機能が働いたにしては痕が綺麗過ぎるような……。以前私のダンジョンでもその痕を見たことがあるんだけど、もっと雑な感じだったよ」


 透流は痕をじっと見つめた。確かに言われてみればそうだ。それに如月に指摘されて気づいたことがあった。


「……一日で修繕が完了するってことは、それほど傷が大きくなかったってことだ。傷が大きければ、数日間修繕が終わらないこともあるし」

「そうだね」

「でも、傷が小さいのならダンジョン全体の魔力濃度があそこまで低下することはないと思うんだ……。魔力の漏出と言っても、たとえば宇宙船に穴が開いて気圧差で一気に空気が抜けていくって感じじゃないだろ? 傷が大きくなければ、魔力濃度は正常のレベルで推移していたはず」

「うん、うん」


 如月は何度も頷いている。創史は腕組みをして、


「つまり透流、お前はこう言いたいのか? 魔力濃度が低下したのには、別の要因があるって?」

「ああ。その可能性が高いと思う」

「ほうほう。じゃあ、この傷は何だと思う。傷自体は新しそうだが」


 透流は自分の推測が外れているかもしれないと思いつつ、


「……誰かが魔力濃度の低下の原因がこれだと思わせるように偽装した。そういうことだと思う。修繕痕が綺麗過ぎるっていうのも、手作業で修繕した結果か」

「だが、ここには自動修繕機能があるんだろ? 偽装するにしても、ダンジョンを破壊したまま放置すればそれで良くないか? わざわざ自分で修繕しなくてもいい」

「偽装する時間が足りなかった。あるいは魔力濃度をある程度まで回復させたかったから、自動修繕が完了するまで傷を開いたままにしておくわけにはいかなかった。幾つか理由は考えられるけど、この傷と修繕は、人為的なものだと思う」


 透流はそう言ってから二人の表情を確認した。二人とも難しい顔をしていた。


「……俺、間違ってるかな?」

「いや」


 創史はかぶりを振った。


「警察の連中はやっぱり間違ってたって分かって、おれは安心したよ。やっぱりな。やっぱり透流がナンバーワンだ」

「私は」


 如月はじっと修繕痕を見詰めていた。


「なんだか不気味かな。村重くんの論理に瑕疵はないと思うけど、このダンジョンに忍び込んだ人間の目的がよく分からない」


 透流は頷いた。


「ちょっと気づいたことあるんだ。でも、俺、そんなに得意じゃなくってな」

「何のこと?」

「生命探査魔法。ちょっと手伝ってくれ」


 透流は歩き出した。創史と如月は顔を見合わせてから、黙ってついてきてくれた。透流は少しだけ苛ついていた。自分のダンジョンを勝手にいじくり回されたことに。そして自分のダンジョンにちょっと傷がついたくらいでは済んでいないかもしれないという可能性に思い至り、気分が悪かった。

 見取り図を持ってきていたが、ダンジョンの構造は頭の中に完璧に入っていた。目指すところは一つ。迷うことはなかった。





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