学校の七普通
放課後の教室、三角形の窓から西日が差しこんでいた。
「学校七普通って知ってる?」
「えー、何それ?」
六、七人の女生徒たちが車座になって話をしている。ここ、不思議ノ丘中学校の教室には、机や椅子が一つもないので、床に座りこんでいる。
「昔は今と違って普通が流行ってたじゃん。だから、学校まで普通だったんだって。その代表的な普通がこの七つ」
学ランを着た女の子が、巻物を広げた。
学校七普通。
一つ、四月に入学式、三月に卒業式。
一つ、教室には机と椅子がある。
一つ、授業を受けなければならない。
一つ、体育の授業中は体操服を着用すること。
一つ、保健室の先生は、女性とする。
一つ、生徒会長は選挙で決める。
一つ、トイレの花子さんはあくまで噂であって、現実には存在しない。
「こわっ。授業を受けなければならないって虐待じゃん」
「養護教諭、女じゃないとダメとか、めっちゃ差別」
「選挙って、頭悪すぎ。絶対テキトーに投票する奴いるでしょ」
「ちょ、これ、花子さんに見せに行こうよ」
女生徒たちは、巻物を持って、教室を出た。廊下に停めていた自転車に乗り、トイレへ向かった。トイレでは国語の補習が行われていたが、かまわず突入する。
「花子さーん、ちょっとこれ見てよ」
トイレの便器から出てきた花子さんは、巻物を読んで、
「昔はよかったわ。私も七不思議の一つとして有名だったのよ。けれど、不思議が溢れた現代では、私を見ても誰も驚かない」
と言って、花子さんは便器の奥へ引っ込んでしまった。すすり泣く声が、便器の水に波紋を起こした。